伝説のナル | ナノ


60


「部屋に閉じ込められていた俺達の所に、凪が来たんだ」

 そう言って晃聖が話してくれたのは、劇が終わってから今に至るまでの経緯だった。

『無事か?』
『……よく分かったな。俺達が此処に居るって』
『人探しが得意な人が居るんだよ。まあ、今の今まで気配が探れなかったがな』
『成る程。急に気配がしたと思ったのは、テレポートか』
『ああ』

 そう言って近付いてきた凪の片手には、今晃聖が手に持つ分厚い本があったらしい。

『お前はこのページを那智が来るまでに理解しておけ』
『……?』
『そしてその魔導書にある陣で宗介くんを護れ』
『宗介にこれを?何故そんな事を……』
『今ヤツは、恐らく此方に手が出せない。無駄な力を使った筈だからな。だから今夜が勝負所だ』
『無駄な?』
『このまま眠る宗介くんを放って置けば、またヤツに記憶を操作され、宗介くんはいつまで経ってもナルとしての自覚が芽生えない』
『ヤツとは、一体誰の事だ?』
『それは那智に聞け。いいか、那智と高地大樹が揃ったら、三人でそれを行え』


 ……成る程。晃聖から本を受け取り中身を見ると、黒岩の書庫にあった魔導書とよく似た魔法陣が記されている。何でもこの陣は、昔三賢人と呼ばれていた魔導士達が編み出した術式で、それ相応の魔力にだけ応えると言う。それも三人同時にそれぞれ陣を発動させないといけないらしく、現代の魔導士達には不可能とまで言われている魔導だ。
 それを俺達にやれだなんて、相変わらずお兄ちゃんの考える事は凄いねぇ。

「ともかく、俺達三人の力でそいつに一泡吹かせようって事でしょ?」
「まあ簡単に言えばそうだな」
「りょーかい。んで?もう一人のガーディアンは?」
「凪がすぐ向かわせると言っていた。もう来るだろう」

 凪は、宗介がこう言う状態になるって、分かってたのかな。だから先にこうして手を打とうとしているのかな。でもそれは、相手を刺激することにもなる。凪は大丈夫だと笑うけど、本当の所はどうなんだか。

「那智」
「……何?」
「何故凪はやらないんだ?アイツも入れ四人でやる方が確実だろう」

 晃聖の言葉に、俺は目を見開いた。

「知ってたの?凪がそうだって」
「いや。だが普通に考えて、宗介の事をあれだけ考え、実力も十二分にある。宗介からの信頼も勝ち取っているのにガーディアンになれない筈がない」
「ははっ、確かにね」

 真顔で言う晃聖に思わず笑ってしまう。相変わらず冴えてるなぁ晃聖は。

「でも、今の凪には無理かなぁ」
「……」
「晃聖も見ただろ。この間の教室での凪を」
「ああ」
「たぶん、凪が一番悔しいんじゃないかな?」
「そうか」
「うん」

 凪が人任せで終わらす筈がない。でも今は、やりたくても出来ないんだと思う。だからこそ、少しでも可能性を探して、そして俺達に託してくれたんだ。だからその思いを汲んで、俺はガーディアンとして宗介を護ってみせるよ、凪。

「俺、今日はぶっ倒れてるかもしれないけど、後で介抱宜しくねー」
「それは俺の台詞だ」
「えー、でも晃聖親父さん探してたよー?会いに行かないと」
「……全てが終わったら会いに行くさ」

 そう言って小さく笑う晃聖を見て、俺も釣られて笑う。よく笑うようになったなぁ晃聖。何かホント、突っ掛かりがとれてスッキリしたって感じ。
 ニマニマと締まりのない顔で晃聖を見ていると、廊下の方から走る音が聞こえて来た。


「来たみたいだねぇ」
「彼にも状況を理解してもらったら、始めるか」


 もうチャンスは今夜しかないんだ。失敗は許されない。
 何としても成功させてみせるよ。
[ prev | index | next ]

bkm