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「んんっ」
ボヤボヤしている間にも、頬を上気させ苦し気に息を漏らす宗介。マズイ、こんな所で足止めをくっている場合じゃない。早く此処から出なければ。そう思い、今一度足を振り上げた時だった。フと宗介に視線をやって、初めて気付いた異変。俺は目を疑った。慌てて宗介をその場に下ろし、マントから出るその足に手を当てた。敏感になった宗介はそれにも声を上げるが、確認しなければならない。宗介には申し訳ないが、俺はそのまま足首を掴み、グッと大きく足を動かした。
「い、あ……ッ」
「何故、足が治っているんだ……」
運ぶのに集中していて気が付かなかった。
マントから覗く足の患部は、明らかに先程とは様子が違っていた。あれから随分と時間が経っているからもっと腫れていても可笑しくない筈なのだが、今見る限りその腫れはない。それどころか、動かしても何の問題もないようだった。どういう事だ。宗介には今、魔導の力が効かない筈。それなのに足が治っている。自分で治したのか?いや、いくら宗介と言えど此処まで意識がハッキリしない中で治癒の魔導を使うのは困難だろう。
「――癒しを」
もしかしたら、もう宗介にかかった邪魔な魔導が解かれているのかもしれない。そう思い、苦しむ宗介の額に指を当て、自身の魔導を発動させるが、やはり結果は同じ。先程同様、宗介に俺の魔導が効いている様子はなかった。
「チッ……駄目か」
なら、何故宗介の足が?
となると、考えられるのは一つ。俺達の邪魔をする何者かが治した。そうとしか考えられない。だが、この学園で治癒の魔導を使えるの者はそもそも少ない。そうすると自ずと絞られていくが、とてもこんな事をしそうには思えない。と言うより、こんな事をするメリットが彼らにはない筈だ。そもそも、何故俺達の邪魔をしているのだろうか。いや、正確には宗介の邪魔を、だな。そして宗介の邪魔をする理由など、『ナル』だからと言うこと以外にないだろう。だが恐らくこの学園で彼がナルだと把握している人物は殆ど居ない筈だ。でなければ、今頃宗介は学園にいい様に使われ、世界中で崇められているだろう。今の耀が、そうであるように。
(……いや、そうか)
そもそも、邪魔をしていると言う考え自体が間違いなのかもしれない。
俺達にとって邪魔なそれも、その人物にとっては宗介に必要だと考えていて、その上でこんな事をしている可能性だってある。宗介にいとも簡単に魔導を掛けられる位なのだから、相当力の強い持ち主なのだろう。だが、何の為に?何故その力をこんな宗介を苦しめる為に使うんだ?
「っん、はぁ、う……」
「考えていても仕方ない、か」
あくまで憶測でしかない。今俺の考えを並べ立てた所で、宗介が苦しみから解放されることはない。俺は宗介を出来る限り扉から離し、そして閉ざされた扉の前に立った。
「蹴っても無駄だと言うなら、魔導の力で抉じ開ければいい」
右手を前に翳し、俺は意識を手の平に集中させる。するとその手にどんどん光のエネルギーが集約されていく。手のひらサイズにまで集まったその光を、あの扉に放てば完了だ。
「消し飛べ」
手から放たれたそれが、勢いよく扉に向かっていく。
そしてその光が扉に当たった瞬間、辺りは一面光に包まれ、部屋に轟音が鳴り響いた。
*
「まだ、足りない」
光の子は、無事に手に入れた。
もう少しで、完全にあの子の物になるだろう。
「後、三人」
急がねばならない。
もう、あまり時間がないのだから。
「だから――邪魔しないで欲しいんだけどな」
全く、あの子の人選にはほとほと参るよ。
けどあんまりおいたが過ぎるようなら、私も考えないといけないね。
(ねえ、雷のガーディアン)
私の邪魔だけはしてくれるなよ。