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「ちょ、なんだよ。俺今急いでるんスけど」
「どーせ宗介探してるんでしょ?無駄だよ。此処には居ないから」
「は?何でアンタがそんな事知って…っ」
「説明は後。早くしないと宗介と晃聖が帰って来れない」
朝から宗介と連絡が取れない。今日は学園祭当日だから演劇の準備でもしてるのかもと蓮と二人で見に行ったけど、そこにも宗介の姿はなかった。それどころかみんな宗介を捜しているらしい。昨日から妙な胸騒ぎを感じていたけど、もしかして宗介に何かあったのかもと俺達は手分けして朝から宗介を捜し回っていた。もう学園祭どころじゃない。
校内を駆け巡り、寮の辺りに辿り着いたところで、息を切らした黒岩那智に会った。この人とは最初から馬が合わない。宗介に嘘を教えベタベタと触るのとか、本当に最初は許せなかった。でも宗介はこの人を頼りにしているし、何よりこの人もガーディアンだ。そう邪険には出来ないのがネックだ。宗介が居れば何とか持つ間も、いないから余計気まずい。俺は小さく会釈をして横をすり抜けようとした、のだがいきなり腕を掴まれ、冒頭のやり取りに戻る訳だ。
「晃聖って、あの陰険生徒会長かよ……」
「あはっ。こーせーも随分なイメージ持たれてんねぇ」
まあ決して明るくはないけど。
そう言って笑うソイツに反して、俺の心は始終落ち着かない。なんで宗介がアイツの所へ……。俺が考えてもどうしようもないが、こうと決めたら一直線な危うい宗介に、俺はいつも置いていかれそうで怖い。もしかしたら、いつか俺の手の届かないところへ行ってしまうんじゃないかと思ってしまう位。そんな俺のことなど露知らず、連れられやって来たのは寮の中庭。みんな今本校舎の方で学園祭をしているから、流石に人気はない。
「此処なら平気かな…」
「それで?宗介が帰って来れないってどう言う意味なんスか?」
「説明は後でって言ったでしょ。それよりそっち立って」
「はあ?」
訳も分からずアンタの指示に従えと?そう言う意味を込めて相手を睨めば、相手は呆れた様に溜息を吐き、そして俺に厳しい視線を向けて来た。
「これは俺達ガーディアンにしか出来ないこと。お前は主の願いを叶えられないの?」
「――!」
「自分の主が誰なのかハッキリ認識してるなら、今は黙って俺に従えよ」
有無を言わさない言葉。でも俺を従わせるには十分な言葉だ。
置いてけぼりで納得いかない気持ちを抑え込んで、俺は黙って話の続きを聞いた。
「分かったならやるよ。今から俺達二人で結界を破る」
「は?」
「厳密には学園にかかる結界から、更に結界をはることで穴を開けようって訳。これは他の誰でもない。俺達がやらないと駄目なんだ」
「……分かった。それで宗介が戻って来るなら」
理由は分からない。けど、宗介の為になるなら、俺はどんなことでもやるよ。
「準備はいい?」
「当然」
「なら、行くよ」
そう言ってお互い距離をとり、真ん中に意識を集中させる。恐らくこの場所を選んだのは魔導警報機がないからだろう。でも此処の警報機って、判別する魔導がそれぞれ違うと聞いたけど、この広い場所を選んだのには何か理由でもあったんだろう。まあ俺が今あれこれ考えていても仕方がない。色々気になることはあるけど、宗介の為に今出来る事がこれなら、俺はそれを全力でやり遂げる。
(我らが護りし主君の途を、此処に示さん)
――宗介。俺達は此処に居るよ。だから、帰って来て。
その瞬間、視界が白い光に包まれた。
*
「那智に連絡を取った。今ならきっと、学園に戻れるだろう」
「え?」
そう言われて俺は会長に促される様に今一度瞬間移動の魔導を発動させようとした。しかし、会長が何故か俺背後に回り、俺の目元を覆った。そう、凪さんがしてくれたように。そして、自分の手をソッと俺の手に重ねた。
「っ、会長?」
「いいか。今、那智と大地のガーディアンが途を示してくれている」
「え?大樹と、那智先輩が?」
あまり二人がペアになっている姿が想像できず困惑する。そして耳元で会長が低く囁くように言うから余計困惑する。でもたぶん俺が集中できるように静かに話してくれているのだろう。
「思い浮かべるのは学園じゃなくていい。二人を思い浮かべろ」
「二人を……」
「その為に、アイツらに頼んだ」
お前が選んだ者達だ。イメージしやすいだろう?
そう問いかけられ、思わず頷く。俺が選んだと言う意味はよく分からないが、でも会長が此処までやってくれたんだ。俺もそれに応えないと。それに、俺達の帰りを待ってくれている人達がいるんだから、尚更。
「雑念は捨てて、集中するんだ」
「はい」
会長が目を覆ってくれているお蔭か、とてもイメージがしやすい。あの時と同じ、深く深く入っていけるのが分かる。そしてさっきとは違う、明確に感じた何かの気配。そう、これは大樹と、那智先輩だ。二人を今、とても近くに感じた。
「――此処だ」
それを感じた瞬間には、俺の魔導は発動していたらしい。
足元がなくなるような浮遊感を体験した後、すぐに転がされる様にどこかへ着いた。着地の瞬間に引き剥がされたのだろう、会長が少し離れたところで膝をついていた。俺は慌てて起き上がり、会長に駆け寄る。
「か、会長!大丈夫ですか!?」
「ああ。俺は平気だ」
「――宗介?」
「え?」
そして俺達のすぐ傍で、聞き慣れた声に呼ばれた。徐にそちらへ顔を向けると、そこにはポカンとした顔の大樹と、ホッとした様に息を吐く那智先輩が立っていた。あれ、二人がいる。えっと、それはつまり。
「此処は、冥無!?」
「宗介!良かった無事で、怪我とかない?」
「大樹、うん。大丈夫」
自分の目で見渡し、此処が冥無学園だと言うのを再認識した俺の心は歓喜に満ちていた。良かった、俺の魔導成功したんだ。無事帰って来れたんだ。そんな一人浮かれる俺に大樹が慌てて駆け寄って来て、俺の身体の心配してくれている。
昨日会ったばかりなのに、何だか久し振りな気がする。俺は湧き上がる感動を抑え、そう言えばと切り出した。
「大樹達のお蔭で戻って来れたんだよな。ありがと」
「ううん。俺達はただ途を作っただけ。これは宗介の力だよ?」
「……そっか」
色んな事が急にあり過ぎて実感あんま無かったけど、俺、魔導が使えてる。でも言わばこれは補助魔導で、属性魔導ではないんだよな。いつかはちゃんと使い熟せる様になりたいな。
「おかえりー。こーせー」
「那智か。すまないな、手間をかけて」
「いいえー。宗介の為、だからね」
「ああ。だが悪いがゆっくり話してる暇がない」
那智先輩と話していた会長がそう言って俺に顔を向け、そのまま近付いて来る。そして目の前まで来ると俺の腕を掴んだ。
「え、会長?」
「行くぞ宗介。劇まで時間がない」
「――そうだ!」
会長に促され、俺は会長と共に体育館を目指すために走り出した。
「那智先輩もありがとうございました!二人とも、また後で!」
そう大声で叫んだ俺に、二人が手を振って応えてくれた。急がないと、皆が待っていてくれてるんだから。
*
「今のは、瞬間移動?」
「そーみたいだね」
「…?なんか顔険しいッスよ?」
「べっつにー」
俺の予感て結構当たる訳よ。
んで、今の晃聖を見てそれが見事的中した感じだった。
「無意識なのかねー、名前で呼んでたの」
宗介自身も気付いてなかったし、ホント天然二人は手ごわい。