伝説のナル | ナノ


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 もう、間違いないのだと知る。彼の紅い瞳が、全てを物語っていた。今間違いなく彼が使ったのは那智の得意とする『アナライズ』。そしてこんな遠い地にやってこれたのは、恐らく凪の『テレポート』を覚えたからだろう。以前、白河の家で見つけた古い魔導書に書いてあった。
 全ての魔導士は生まれながらに一つの属性を持つ。だが、ただ一人、何にも属することのない性を持つ者が居ると。無と言う意味の幻の属性。そして、何にも属さない、つまりそれは一つの属性にとらわれることなく、どの属性も全て使いこなせると言うこと。正に、最強の魔導士だ。


(そう、それが――ナルだ)


 自分を掴んで来た俺を、紅い瞳で呆然と見つめてくる彼を見据えた。





「キミは一体…」
「父さん」

 会長のお父さんが俺を見て口を開いた瞬間、会長が言葉を被せて来た。それも強めの声だった為に、俺もどうしたのかと会長の横顔を見上げる。

「何だ」
「俺は、白河の人間として今まで出来る限りの努力をしてきました」

 俺も会長のお父さんも、突然の会長の話に目を丸くした。

「ご存知の通り、母がこの白河の家に入れるよう、俺はやって来たつもりです」
「ああ…」
「けれど母が亡くなり、俺には頑張る理由がなくなった」
「――!」

 俺はその言葉に息を呑んだ。まさか、会長自身からその言葉を聞くと思ってなかったから。

「けど、俺は冥無学園に行きました」
「答えを探す為、だろう?」
「勿論、それもあります。けれど、理由は他にもあります」

 そう言って何処か穏やかに笑う会長は、親父さんをジッと見据える。

「どうやら、父さんもご存じないようですね」
「何の話だ?」
「母が魔導士だと言う事実を、です」
「魔導士?彼女が…?」

 初耳だったのか、親父さんが目を見開き驚くように声を上げた。

「はい。そして、冥無の卒業生でもあったと」
「馬鹿な…最初彼女を屋敷に入れた時にはその様な事実は無かった筈…」
「敢えて話さなかったのかもしれません。そして書類上でも、その事実は書かなかった」

 しかし会長は小さな頃に聞いたことがあったようだ。
 自分の母親が、冥無で学んできたことを。


『冥無にはね、母さんの夢が詰まっていたの』
『ゆめ?』
『ええ。魔導士になって色んな人の役に立つ、在り来たりだけど難しい夢。でも今はもう、その夢は叶わないわね…』
『……』
『けどね。もしこの先迷うことがあっても、きっと大丈夫。あの学園に居れば、答えは見つかるわ』
『どうして?』
『あそこは、私に足りないものを教えてくれた、とても大切な場所だから』


 会長のお母さんは、冥無を大切に思ってくれていたんだ。そしてその想いを知っていたからこそ、会長は敢えて冥無を選んだ。

「俺は母が進んだ道を、見てみたかった」
「……!」
「あの学園で何を思い何を学び、何を見て来たのか、俺もその後を辿りたかった」
「晃聖…」
「母の足跡を辿れば、俺も答えを見つけられるのかと、そう思ってました」

 そう言って会長が、少し自嘲気味に笑った。

「けれど、駄目でした。俺は、ついて行けなかった。いや、当然の結果だ。俺は母ではないのだから。思いも考えも何もかも母とは違う俺が、端から辿れるはずなかったんだ」

 そして、行きつく先は違った。そう呟いた会長は、自嘲気味に浮かべていた笑みを消し、強く真っ直ぐ、自分のお父さんを見つめた。
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bkm