伝説のナル | ナノ


27

 那智先輩と別れた後、俺は一人部屋で天井を見つめていた。そして先輩に言われたことを思い出す。少なくとも、会長は俺のことを嫌ってはいないようだ。それだけで十分嬉しかった。少しは、会長に近づけたんだなと思えたから。
 けど、問題は山積みだ。
 もう残り四日しかない。その前に俺は会長を連れ戻さなきゃいけないんだ。それも、会長が自分で戻る意志がある上でだ。これほど難しいことはないと思う。認めてもらえたとは言え、俺はただの一後輩なんだから。でも、もうウダウダ言わない。俺がどうしたいのかは、もうハッキリと分かったから。

「でも俺、居場所とか分かんないな……」

 恐らく会長はもう本家に戻ったんだろうけど、俺はその場所すら知らない。これじゃあ会長に会いに行くことすらままならない。

「全然駄目じゃん…」

 いきなり躓き、思わず項垂れる。どうしよう、頭の中でグルグルと思考を働かせていると、不意に頭の中で声が響いた。

〈宗介〉
「え…レイ、さん?」

 ガバリと勢いよく身体を起こし、俺は頭の中で響く声に耳を傾けた。

〈久し振り宗介〉
「お久し振り…です?」

 思わず疑問形になってしまうのは、何となくこの前の夢を思い出したから。あの時俺に声を掛けたのは、レイさんだったはず。けど今のレイさんは久し振りと言う。じゃあ、あれは?本当にただの夢だったのか?

「あ、あのレイさん…」
〈那智クンの闇の中に入って以来だからね〉
「あ、その節はどうも、ありがとうございました。お蔭で先輩は助かりました」
〈あれは宗介の力だ。私は何もしていないよ〉

 レイさんがその時以来と言うなら、そうなのだろうか。俺の勘違いだったのかも。

「でも、お礼も遅くなってしまって、すいません」
〈宗介は律儀だね。それより、何を悩んでいるの?〉
「え?」
〈居場所が分からないって、ボヤいていたから〉

 クスリと笑うレイさんに、少し恥ずかしさを覚えた。一人だと思って呟いてたけど、レイさん聞いてたんだ。恥ずかしいな。

「ちょっと人を探していて」
〈へぇ?〉
「でも居場所すら知らなくて、どうしようか迷っていたんです」

 そう言うと、レイさんが静かな声でならさ…と言葉を漏らす。

〈私が捜してあげるよ〉
「え…?」
〈だから、此処においで?〉

 静かで優しい声。けど、俺はそれに少し恐怖を感じた。何故だろう。今までそんな事なかったのに。

〈あの時みたいに、呼んで?〉
「ありがとうございます。でも、俺」

 少しざわつく胸を気にしながらも、俺はレイさんに頭を下げた。と言うか姿は見えないからその場でぺこりと。レイさんは少し不思議そうに宗介?と俺の名前を呟いた。

「俺、自分の力で捜そうと思います」
〈何故…?〉
「頼りっぱなしじゃ、駄目なんだ」

 那智先輩を捜した時だって、俺は結局他人の手を借りた。この冥無に来たのだって俺の力ではないし、此処での生活の殆どは皆に助けられてやって来てる。だからかな、自分でやると決めた以上、今回は自分の力で成し遂げたい。その気持ちが強く出ているのだ。

「だから、今回は俺頑張ります。折角の申し出ですが…すいません」
〈…いや〉
「レイさん?」

 ポツリと感情の読み取れない声でレイさんが呟く。やはり気を悪くさせたのかと思いドギマギする俺を余所に、レイさんはそのままの調子で話し始めた。

〈キミの捜している人物を強く思い描いて〉
「え?」
〈そして、そのまま扉に手をつくといい〉

 何の話か分からず混乱する俺を余所に、レイさんは淡々と話を続ける。

〈大丈夫。今のキミになら出来る。キミがよく知る人物の十八番でもあるしね〉
「一体何を……」
〈それに教えてもらったはずだよ。魔導操作を――あの稀な瞳を持つ子から〉

 稀な瞳って?一瞬考えたが、魔導操作を教えてくれたと言う言葉からパッと思い浮かんだのはあの背の高い後輩。紫色の瞳を持つ清水の顔だった。

「レ、レイさん、あの…」
〈それと行うのは満月の夜に行いなさい〉

 俺の問い掛けにも答えず淡々と言葉を並べていくレイさん。満月の日、確か三日後だ。つまりは、学園祭前日の夜。大丈夫なのかと心配になる一方で、レイさんの言葉をほぼ信用している自分に驚く。何故だかいつもそうした方がいいと、直感だけど思うんだ。

「分かりました。満月の夜にやってみます」
〈絶対だよ宗介。健闘を祈ってる〉
「え、ちょっ、レイさん!」

 慌てて呼び止めるも、レイさんの反応は返ってこない。どうやら本当に居ないようだ。怒っているのかとも思ったが、俺にこうしてアドバイスみたいなものをくれるあたりそう言う訳ではなさそうだ。
 でも、やっぱり少し気になるな。さっきのレイさん。よし、全部片付いたらもう一度会いに行ってみよう。そう胸に刻んで、俺は壁に掛けてあるカレンダーへ視線を移す。

 学園祭まで、後四日。
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bkm