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俺は、先程会長に会ったことを那智先輩に言った。そして考えなしに言いたいことだけ言って、会長は凄く失望した顔をしていたと。結局俺は、何も出来なかった。会長に、俺の言葉は届かなかったんだ。
「うん。それで?」
「え?」
一通り話し終わった俺に、那智先輩はそう問いかけて来た。それで?
もう、この話の続きはないと伝えると、先輩は酷く優しい笑みを浮かべた。
「そうじゃなくてさ、宗介はどうしたかったの?」
「それは、俺にも分かりません。結局自分がどうしたかったのかも分からないで会長にあんな……」
「違うでしょ?」
ポンッと、先輩が俺の頭に手を置く。いつの間にか、もう俺の部屋の前まで来ていた。
「聞き方を変えようかなー」
「え?」
「宗介は、晃聖と何がしたかったの?」
そう言って笑う先輩を見て、俺はその言葉の意味を考える。俺がどうしたかったじゃない。俺が会長と何をしたかったのか。何を…?
それを考えた時に、俺は自分が望む答えを見つけた。
「会長は、家から逃げて来たと言ったけど、俺は会長に冥無から逃げて欲しくなかった」
「うん」
「冥無で、会長の望む答えを見つけて欲しかった」
「うん」
「けど、そうじゃない。それだけじゃなかった…」
何をしたかったのかを考えていた時、一番最初に浮かんだのは、他でもない、会長の笑った顔だった。そう、俺はもう一度あの笑顔が見たい。そして、それが見れるのは恐らく――。
「俺、会長と、皆と演劇したいです」
「うん…」
「皆で一生懸命やって、会長も、あの時は凄く楽しそうでした」
二人で練習して、皆と合わせて、漸く形になった演劇なんだ。此処で終わりにしたくない。茶番なんかじゃないんだ。誰よりも忙しいのに一番働いた会長のその姿を見れば、きっと会長の家族にも伝わる筈だ。
「だから、俺は――」
「そーすけ」
俺の言葉を遮り、那智先輩が俺の頭に置いていた手でソッと頬を撫でた。
「一つ、良いこと教えてあげる」
そう言って俺の耳元に唇を寄せた那智先輩が紡いだ言葉。それを聞いた俺は、信じられない気持ちでいっぱいになった。でも、那智先輩が言うんだ。恐らくそれは真実だ。
だからこそ、俺は嬉しくて思わず笑ってしまった。
『晃聖はね、認めた相手の事はお前って呼ぶんだよ?知ってた?』