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「けど、ホントの所は分かんねぇだろ。本気で耀に惚れたのかもしれねぇ」
「……そうだったら、それだけのヤツだったって話だ」
「ハッ」
「けど、アイツは天才だ。そんなヤツが真実を見抜けないとは思ってないさ」
「どっから来るんだよ、その自信は」
その言葉に、今度は黒服の男が鼻で笑って返した。
「天才であるこの俺が言うんだ。当然だろ」
もの凄い上からの言葉に、同室の人がポカンと間抜けな顔になる。思わず俺も同じ様な顔で彼へと視線を送った。何というか、凄い自信家な人だな。それに口調もこの人相手だと大分崩れるみたいだし。うーん、よく分からない人だな、この人。
「付き合いきれねぇな…行けよ、さっさと」
ウンザリと言わんばかりの同室者は、そのまま黒服の人の横をすり抜け中へ行こうとする。だがその腕を擦れ違いざまに掴んだ黒服の人によって、それ以上進めなかった。ギロッと効果音がつきそうな目で腕を掴んで離さない男を睨み付けるが、彼は笑みを浮かべるだけ離そうとしない。
「どう言うつもりだ」
「いや、最後に一つ忠告しとこうと思ってな」
「忠告…ッ、てめ…」
途端に同室者の顔が歪む。俺は何が起こっているのか分からなかったが、同室者が自分の腕を掴むその手を懸命に引き剥がそうとしているのを見て、漸く分かった。血管が浮き出てる。きっとかなり強い力で掴んでいるのだろう。
「この人に手を出したら、弟の馴染みと言えど容赦しない。分かったな?」
この人、と言って頭をポンと叩かれた。え?俺のこと?
「……」
「沈黙は肯定ととるぜ」
そう言って掴んでいた腕を離した黒服の人は、再び俺の手を取り、今度こそ部屋を出て行く。チラリと後ろを振り返り、暗い玄関に佇む同室者を見た。てっきりあの気性の荒さから怒って追い掛けてくると思っていたけど、最後に見た彼の表情は、凄く驚いたような顔だった。
「すいません、立ち話しちゃって」
「いえ、別に…」
後ろを見てると、前から声がかかった。先程の砕けた口調が、再び最初と同じ畏まった口調に戻っている。にしても、昔からの知り合いのようだけど、仲がよさそうとは言えない雰囲気だったな。
「それにしても、ずいぶん遅くなってしまいました。急がないと怒られてしまいますね」
「そう言えば、何処へ向かっているんですか?」
今更な質問だけど、質問する間もなくあの人との会話が始まってしまったから仕方ないことだと思う。二人でエレベーターに乗り、扉が閉まった所で彼は言った。
「――我らが学園長殿がお待ちです」
学園長――その言葉を聞いて、無意識に拳を握りしめた。