ココロ

中学生がこの合宿にきてからというもの。
どうも俺は落ち着かなかった。
理由はわからない、ただなにかが欠落したような気がしてそれがすごく腹立たしくて。
この行き場のない感情をどうしたらいいのか俺には全くわからなかった。



「……また徳川の奴苛立ってるな」



「もういつものことじゃない。放っておきなよ」



「…だが周りに迷惑が掛っているのにそういうわけにはいかないだろう」



どうしたらこの気持ちは解消されるのだろう。
このままじゃいずれテニスにも影響がでてしまうかもしれない。
今は大事な時期なのに…



「…なんですか先輩方」



そこで俺はじっと俺を見てくる先輩達に気づいた。
鬼先輩は俺を危険人物のような目でみてくるし、入江先輩は呆れ半分面白半分という感じで一体なんなんだ。



「無自覚なのもいいけれど、あまり自覚がなさすぎるのも考え物だよ徳川」



「……?」



入江先輩がすれ違い際にそう俺の耳元で呟いて練習に戻って行った。
その後ろを行く鬼さんもポンっと俺の肩を叩いていった。



「一体なんなんだ…」



わけがわからない俺は先輩達の後ろ姿をただ見ていることしかできなかった。




「……」



今日は一段と気分が悪かった。
理由は未だにわからない。
なぜイライラしているのか。
ひとつわかったことは視界にレイが映ったときだけそれは起こるということ。
胸がモヤモヤするような気持ち悪さ。



「…徳川」



「入江先輩?」



そんな俺にそっと寄ってきたのはあの意味深な言葉を残していった入江先輩。



「いい加減、自力で気づくかと思っていたんだけれどそういうわけにはいかなかったみたいだから。」



「一体なんのことですか?」



「イライラするんだろう?しかもレイちゃんを見てるときだけ」



俺が最近ずっと悩み続けていた思いを、この人はピタリと言い当てた。
さすがはよき理解者というわけか…



「僕じゃなくたって気づいてるよこのくらい。鬼さんだってもうわかってる」



なんだと、周りにわかるくらい俺は苛立っていたのか。



「…はい。その通りです」



これ以上隠したところでこの人にはどうせばれていると思い俺は素直に自分の気持ちをうちあけた。
最近ずっと気分が悪いこと、レイが視界に入る時だけだということ、でもそれはいつもというわけじゃなくてなるときとならないときがあるということ。



それを全部聞いた入江先輩は、はぁっとため息をこぼして(相手は先輩だがこれは失礼だと思う)ばかじゃないのと言い放った。



「…え?」



「最近じゃ幼稚園生だってこんなことわかるのにどうして高校生の徳川がわからないんだ。純情か、鈍感か」



ずいっと詰め寄ってくる入江先輩に思わずのけぞると、びしっと俺の前に人差し指を突き出してきた。(某見た目は子供頭脳は大人な名探偵のようだ)



「いい?それは徳川がレイちゃんに恋してるからだよ」



「……は?」



一体このくるくる頭の先輩は何をほざいているんだろう。
ドヤ顔で言われたところで信憑性は0で、何を根拠に言ってるのかもわからない。



「悪かったね、天パで」



「……スイマセン」



恐ろしすぎた。



「じゃあ聞くけどいつ頃からイライラするようになったの?」



「…最近より少し前です」



「中学生たちが来る前から?」



「……いえ、そのときはまだ」



「じゃあレイちゃんをみてイライラしたとき周りに誰がいた?」



「……あまり覚えてませんけど、中学生とか」



そこまで答えると入江先輩はニヤリと笑って俺を見た



「結論からいうと、徳川がイライラしていたのは"嫉妬"していたからじゃない?」



「……嫉妬?」



「レイちゃんを中学生に取られて嫉妬していたんだよ徳川は」



あぁ、そうかこれが"嫉妬"というやつか。
そう思うと心の中にストンと何かが落ちてきた気がして、さっきまで荒んでいた俺の心は驚くほど穏やかになった。
わかってしまえば割り切ることができる。



『…カズヤ先輩!』



遠くから名前を呼ばれ、振り向くとこちらに駆け寄ってくるレイの姿が見えた。



「噂をすればなんとやら、かな?」



入江先輩はクスリと笑みをこぼして、そうそうと俺の耳元に顔を近づけた。




「自覚したのはいいけれどライバルは多いこと、忘れないでね?」



その言葉に思わず入江先輩の顔を見ると僕だってその一人なんだからと、とんでもない発言を残して去って行った。



『……カズヤ先輩?あれ、入江先輩いっちゃったんですか?』



見れば彼女はすぐ近くにいて、俺の隣で入江先輩の後ろ姿を見送っていた。



「…何かようか?」



そんなこと、聞いてどうするんだと自分を呪う。
別に用事がないと話してはいけないわけではないだろうに、さっきまで中学生(アイツら)といたと思うと思わず冷たい言葉が出てしまった。



『姿をみかけたので。これからお昼ですよね?一緒に食べませんか?』



そんな俺の言葉を気にも止めずレイはいつものような笑顔でそう尋ねてきた。



「……」



これが好きという感情なのか俺にはわからない。
どちらかといえば今は可愛い妹のような存在に近い気がする。



『…あれ、カズヤ先輩?』



先を歩いてしまった俺を不安に思ったのか、レイが少し焦ったように声をかけた。



「……行くんじゃないのかい?」



『…はいっ!』



今ははっきりさせなくていいと思った。
自分がレイに思っている以上に執着を寄せていることがわかっただけでも収穫だろう。
今後、中学生に近付かせなければいいだけの話。



隣を歩くレイを盗み見る。
今はこの距離感が俺たちにとってちょうどいいものなのかもしれない。



ココロ
(あ、レイ先輩!)
(どうしたの、赤也く……っカズヤ先輩?)
(……昼、食べに行くんじゃなかったのか?)
(……ふふっ、はい!)






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