※パソコンの中に居ます。
※臨→静要素があります。
寂しくなかった、と言えば嘘になる。
「初めまして、私は折原日々也と申します。」
まるで御伽噺に出てくる王子みたいなふざけた格好した野郎が、
床に片膝を付いて俺の右手の甲にキスしやがった。
「御無礼を承知で告白致します、貴方が好きです。」
所謂一目惚れというヤツをしたとぬかした。
「それで逃げてきたの?」
「ああ………。」
「夢雄って意外に恥ずかしがり屋なんだね!(笑)」
訳が解らなくなった俺は、
奴を置いて兄貴(津軽)と先輩(サイケ)の元に走り、
今こうして相談に乗ってもらっている。
くすくす笑う先輩にムカッとするが、
反論したらかえって笑われそうだから黙る。
「初対面の奴にいきなり好きだなんだって言われても、どうすりゃ良いのか解らねえんだよ…。」
「でも夢雄さ〜、今までだって色んな人達に好きだって言われてたじゃない。」
「…そういうのは一晩だけの付き合いなんだよ。」
先輩が素早く兄貴の耳を塞いで俺を睨んでくる。
自分からそういう話題に持ってったくせに…。
「だったらその人ともそうすれば良いじゃん。」
「………。」
確かに、今まで通りに答えりゃ良かったんだろうが…、
アイツは今までとは違う気がして今までみたいに言えなかった。
「夢雄、その人きっと、本当に夢雄の事が好きなんだと僕は思うよ?」
「…何でそう思うんだよ兄貴…。」
「だって、夢雄が恥ずかしがるから。」
「…意味わかんねえ…。」
兄貴は幼くてボキャブラリーが無いからいつも言う事が抽象的で、
俺にはいまいちよく解らない。
それをいつも補ってくれんのは先輩だった。
「ようするにさ、夢雄はその人とは一晩だけの付き合いをしたくないんでしょ?それって、今までに無い特別じゃん!」
「とく…べつ…?」
そうなんだろうか?
そもそも特別って何だ?
先輩にとっての兄貴みたいな感じだというのは解るが、
それはこういう事を指すのか?
「夢雄、その人ともう少しお話してみたら?」
「答えはまだ必要無いと思うよ?頑張ってね!」
先輩は良い笑顔で俺の頭を一撫でして、
兄貴を連れて自分のフォルダに入っていった…つうか兄貴を連れ込むなよ。
まあもう今更だから言わねえけど。
ふと馬の蹄の音が聴こえて振り返ると奴が居た。
…………馬?
「あ、あの…。」
「………何だよ?」
「っ先程は申し訳ありません、初対面の者に突然愛を告げられても御不快なだけですよね…(汗)」
わざわざ謝りに来たのか?
変な奴だ…。
「別に慣れてるから気にすんな、それよりおまえ、どうせマスターが俺の相手役にって造った奴なんだろ?」
俺達を造ったマスター…折原臨也はある男を愛している。
だがその想いは歪んでいて屈折している為、
成就する事はほぼ無いだろう。
その鬱憤晴らしなのか現実逃避か、
自分似の先輩と想い人似の兄貴をいちゃつかせる。
そして、より想い人に近いらしい俺にもとうとう【恋人】である【折原臨也】が与えられた…という事だろう。
そうだよ、ちょっと考えればすぐに解る事だった。
「?どういう意味でしょうか?」
「だぁから、俺を愛する様にってプログラムされてんだろ?俺の名前はサイケデリック静雄、夢雄って呼んでくれ。」
俺はにこっと愛想良く笑って握手の為に手を差し出した。
なのに奴は応えない。
「…貴方が何故その様に仰るのかは解りませんが、私は貴方を愛しております。」
「…だからそれは」
「この想いは誰かに定められたモノではありません、私は私の意思で貴方を愛おしく想っているのです。」
訳が解らない。
そう言う様にマスターに言われたのか?
そういうプログラムなのか?
「…兄貴と先輩みたいにいちゃつけば良いだけだろ、何重苦しい事言ってんだよ。」
そりゃあ確かに兄貴と先輩はお互いに相手を愛している。
見てるこっちが恥ずかしくなるくらい。
でもそれだって結局はそういう風に設定されているからだ…。
「私は貴方の心が欲しいのです。」
何だよ、心って…。
俺達はただのデータだろ…。
愛し愛されるなんてプログラムされてなきゃ不可能だろ。
「…貴方も私もまだ真っ白なんですよ、これから一緒に構築していきましょう?」
「……何をだよ?」
「津軽さんとサイケさんの様な、心を。」
優しい眼差しが俺を包む。
訳が解らない。
心って…俺達みたいな存在にもあるのか?
………………………
「…やれやれ、シズちゃん似の単細胞の癖してアレコレ考えるんだから困った子だよ。」
パソコンの中で拙い愛を交わし始めたプログラム達に苦笑する。
「さて、ちょっとシズちゃんでもからかいに行こうかな。」
愛しくて愛しくて、
殺したいくらいに狂おしい。
この想いは今も更新中…。
END
〜あとがき〜
初の日々夢がちょっと薄暗くなりました。
少し病み気味な臨也を書いてみましたが撃沈…orz