「いやあ、まさかあの臨也が兎を助けるなんて、昔から君の起居挙動を見てきた僕にとってはまさに驚天動地だよ!」
「うるさいよ新羅、その角へし折るよ?」

静緒を自分の巣に連れ帰った臨也は、
数少ない友人の1人(1匹)である鹿を呼びました。
名前は新羅、この森で唯一医療知識を持った動物です。

新羅は治療しながら静緒を興味津々といった様子で見ます。
不躾に観察されて嫌そうに顔を歪める静緒ですが、治療じたいは丁寧で優しい為何も言いません。

「僕のセルティには負けるけど、綺麗な兎だね。」
「なっ!?綺麗って…!//」

言われた事が無い誉め言葉に静緒は赤面します。

「ちょっと、俺の獲物に変なちょっかいやめてよ。」
「大丈夫だよ、私はセルティ一筋だからv」
「変態闇医者の癖に。」
「???」

2人のやりとりに首を傾げる静緒。
彼女はまだ自然界での自分と臨也の関係を知らないのです。

「はい、手当て終了!後は2〜3日安静にしてれば治るよ。」
「あ、ありがと…。」
「どう致しまして。」

静緒は巻かれた包帯をマジマジと見つめ、新羅に頭を下げました。

「そうだ!今度セルティを連れて来るよ!」
「セルティ?」
「僕の大切な大切な愛しい妖精さ!あんなに美しく可憐な存在、まさに奇跡と言って良い!そんな彼女と愛し合える私は世界一の幸せm」
「はいはい、治療が終わったなら帰ってよ。」

恍惚とした顔でつらつらと語る新羅を外へ蹴り出しました。
外から非難が聞こえますが、臨也は気にせず静緒に向き直ります。

「臨也?」

静緒がきょとんと可愛らしく首を傾げれば、長い耳が揺れます。
臨也は喉を鳴らして静緒の耳に手を伸ばし、そっと歯を立てました。
鋭い牙が耳に触れて静緒の体はビクッと震え、耳は臨也の手の中で一瞬跳ねます。

「いっ臨也!?」
「何?」
「なっ何じゃねえ!耳離せっ!」
「何で?」
「なっ何でって…!」
「まだ解らないの?俺は狼で君は兎だよ?」

ギラリと光る赤い眼に体が竦みます。
それは昔から刻まれた被食者の本能でしたが、
ずっと外敵がいない狭い檻の中に居た静緒には、
やはり理解できませんでした。

「俺は捕食者、君は俺に喰われる為に居るんだよ。」

臨也は静緒の柔らかい耳を撫でながら言います。
少しずつ怯えの色が見え出した静緒の瞳に自分が写っている事に笑います。

「解った?」
「っ…!」
「ああでも安心して?そんなアッサリとは食べないから…少しずつ…大事に食べてあげる。」

臨也は静緒を殺す気はありませんでした、
本当は怖がらせるつもりもありません。
ただ傍に置いておきたかったのです。
しかしどうすれば静緒をずっと自分の傍に居させられるのかを、
臨也は解りませんでした。

「ねえシズちゃん、すぐには食べないであげるから、<味見>して良い?」
「え?味見…?」

戸惑う静緒を無視して、臨也は静緒の耳に舌を這わせました。
突然の濡れた刺激に目を見開く静緒。
臨也の舌は耳の根元から先まで何度も何度も滑ります。

「あ…ちょっ…くすぐったいっ!」

ふるふると震え、静緒は勢い良く臨也の頭を叩きました。
バシッと鈍いが音が響き、臨也は叩かれた箇所を押さえてうずくまります。

「いったぁ〜!」
「あ、わっ悪い!大丈夫か!?」
「っ…あのさ、何で謝って心配するの?」
「え?」
「嫌だったんなら、俺が痛がってる内に逃げれば良いじゃない。」
「………!」

静緒は臨也に言われてその通りだと気付きました。
ですが静緒は先程の行為を、
吃驚はしましたが嫌では無いと思い、
叩いてしまった臨也の頭を撫でます。

勿論臨也は驚愕します。

「…どういうつもり…?」
「……だって、私には行く所が無い。」
「………。」

静緒のその言葉に、
臨也の心は喜びで満たされました。
静緒には自分の元しか居場所が無いという事と、
先程の<味見>を拒絶されなかったという事にです。

「シズちゃん、俺が君を世話してあげる。」
「………。」
「その代わりに、さっきした<味見>を毎日させて?」

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テーマ「人外ファンタジー」
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