※糖度高め

平和島静緒。学校内でその名前を知らない者はいない。
学校の女子のリーダーとも言える存在である彼女は、女子からよく相談を持ちかけられる。
『ストーカーを撃退してもらいたい』といった深刻な内容から『元彼がしつこいから撃退してもらいたい』といったプライベートな内容まで。とにかくたくさん。
元来優しい彼女は、女の子には特に優しくなる。そのため女子からのお願いを断れず引き受けてしまう。
だから男子からは恨みの対象として見なされてきた。
学校内の男子だけでなく、暴走族なども彼女に絡んできた。その度に彼女は喧嘩をし、勝ってきた。
女はもちろん、男でさえ彼女に勝てる者はいない。
力も器の大きさも誰も勝てない。男よりも男らしい女として彼女は有名人だ。
しかし有名人とて悩みはある。
息をつく暇がないのだ。いつ誰に襲われるかわからない。いくら力が強いとはいえ、油断しているときに大勢に襲われたらひとたまりもない。
だから静緒は常に気を張っていた。誰にも負けないように。
そんな彼女にも安息の地はある。
家ではない。家は既に特定されているから、そこには既に安息という二文字は消え去った。
ではどこなのだろうか。
「昨日話してたことだけどさ、あれ本当みたいだよ。」
「…そうか。わかった、ありがとう。」
それは、同級生である折原臨也の隣に居るときだ。
周りには隠しているが、二人は恋仲関係である。
静緒が女子から相談を持ちかけられる度に、その相談が真実であるかどうか知るためにたくさんの情報を持つ折原臨也に相談を持ち掛けたのが始まりだった。
それから意気投合して相談以外のことも話すようになり、めでたく付き合うことになったのである。
「…シズちゃん、無理しちゃ駄目だからね?」
折原臨也は平和島静緒と同じくらい強い。彼は平和島静緒と同じくらい恐れられていた。
男子からは恐怖、女子からは羨望の眼差しを向けられる平和島静緒と違い、折原臨也は男子からも女子からも畏怖の眼差しを向けられる。
“平和島静緒よりも敵に回してはいけない人間”、そんな彼に誰も手を出そうとはしない。そんな彼の隣が平和島静緒の安息の場所。
「大丈夫…たまに怖い思いもするが、みんなのためだから。」
唯一、彼女が本音を出せる場所。
「…それがシズちゃんのやりたいことなら、止めないけどさ。俺が心配してることを忘れないでね。」
臨也が静緒の肩を抱くと静緒は突然瞳からポロポロと涙を流した。
これが彼女の、本当の姿。
折原臨也の前だけに見せる、平和島静緒の本当の姿。
「喧嘩なんかしたくない…普通に生活したい…」
「うん…」
「でも、期待されてるから、それに応えたい……そうしてないと、みんな、私から離れて行っちゃう…」
「……」
臨也は、そんなことないと思うけどな、という言葉を飲み込んだ。
そんなことを言ってしまえば静緒が今までしてきた喧嘩が無になってしまう。
人と一緒に居たいという、一般人にとっては小さな、彼女にとっては大きな願望のためにしてきたことを無にしてしまうことは、臨也にはできなかった。
それ故に、彼はただひたすら、彼女の隣で彼女の無事を願うばかりだ。
「…いざや……?」
本当は彼女がどんな人間よりも優しいことを知っているのは、この学校の中では自分だけだと臨也は思った。
だから彼女の心の傷を癒すためなら何でもすると、ある日、青空に誓った。
臨也は静緒の涙を舐め取り彼女のピンク色の唇にそっと口付けを落とすと未だに涙を流す美しい彼女に言った。
「…俺と居るときくらいは、俺のことだけ考えていなよ…静緒…」
彼女は幸せそうに微笑み、彼に体重を預けた。

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