そこから俺はどうやって家に帰ったのかわからない。覚えていない。気付いたら家に帰ってきていた。
「……は…はは、ははははっ…」
思わず笑いが出る。最強と呼ばれ恐れられた俺の弱点が、臨也に嫌われることだったなんて。
心が折れてしまった今の俺は最強という名に程遠い。
あんなところを見ただけで、もう何もかもどうでもよくなるとか、どれだけ心が弱いんだよ俺。
「…いざ、やぁ…っ」
ケータイに向かって呟いても臨也から電話がかかることはなかった。今すぐにでもこのモヤモヤから助けてほしかった。
ケータイ越しに助けを乞えども臨也から連絡がくることはなく、俺はいつの間にか疲れて寝てしまっていた。
ある噂を耳にして胸騒ぎがした。
その噂は『最近、平和島静雄を見かけなくなった』というものだった。
聞いた瞬間、仕事なんかどうでもよくなって、今まで苦労して集めた情報が全て水の泡になってしまうが、そんなことよりシズちゃんの方が心配だった。
シズちゃん家のインターホンを鳴らすと、返事が返って来ない。
お得意のピッキングで開けるも、シズちゃんはそこにはいなかった。どうやら留守にしているらしい。
シズちゃんが見つからないような場所なんて思い付くところは二つくらいしか…
「静雄?ここにはいないぞ。」
田中トムのところには居ないみたいだ。
「気分悪そうだったから長期休暇を与えたんだよ。」
シズちゃんが最近見ないと言われる理由がわかった。仕事がないのだから池袋であまり見掛けないのも仕方がない。
じゃあ、シズちゃんがいるところと言えば後一つ。
「…やっぱり居た。」
新羅の家にシズちゃんは居た。
『私が静雄に会った時はもっとやつれてたんだ。静雄はずっと何も話さないし、どうしたんだ?』
セルティがPDAに打って俺にその文章を見せる。
「…ごめん、俺にもよくわからないんだ。喧嘩はしてないし、最近シズちゃんにも会ってないし。」
『そうか。でも臨也の名前を言ったら震えていたぞ。』
どういうことだろう、俺が何かしたのだろうか。
「…シズちゃんと二人きりになりたいんだけど。」
セルティは何かを打とうとして、その手を止め出て行った。ソファーに座るシズちゃんの横に座る。
「シズちゃん。」
俺が声を掛けると、びくっと震えて少し距離をとられた。
「俺、何かした?」
頬に触るとぱしんと手をはたかれてしまった。ひりひりする手の痛みに耐えながらシズちゃんの言葉を待った。
「…お前が美女と歩いてるとこ見た。」
小声で紡がれたその言葉にただひたすら目を丸くするしかなかった。
「俺のこと、もうどうでもいいんだろ、飽きちゃったんだろ…何で回りくどいことするんだよ…直接言ってくれた方が、まだ良かった…」
シズちゃんが目から涙をポロポロ溢した。心の奥でその様子が美しいと思ったが、そんなこと考えている場合じゃない。
「あの子の方に、行かなくていいのかよ…もうほっといてくれよ…」
「シズちゃん、何を勘違いしてるかわからないよ…俺、シズちゃん以外興味ないよ?」
「嘘つけよっ、あの子、お前の腕に抱きついてた…お前、変装してたじゃねぇか…俺に興味なくなったんだろ…」
シズちゃんの声が痛々しくて思わず抱き締める。
「ごめんねシズちゃん、心配させて…信じてもらえないかもしれないけど、本当に仕事だったんだ。あの女の素性を調べなきゃいけなくて…変装しないと、誰かに見つかっちゃうかもしれないと思って……まさかシズちゃんに見つかっていたとは思わなかった。」
「信じ、られるかよっ…」
「……どうしたらシズちゃんに信じてもらえる?」
そう言ったら、シズちゃんはおずおずと俺の顔を見た。
俺はいつになく真剣な表情をしてると思う。シズちゃんにだけは信じてほしい、俺のこと。
俺が大好きで、愛して止まない君にだけは。
「……じゃあ…」
「臨也。」
「なぁに?」
あれから一週間、トイレに行くとき以外はずっと一緒にいた。お風呂も一緒に入った。
俺の我が儘を聞いてもらって申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「えっと…ごめんな…」
「何で謝るの?仕事とは言えあんなことしちゃったんだもん、俺が悪いよ。」
臨也はパソコンを打つ手を止めて微笑んでくれた。
「ありがとう、少しでも疑ってごめんな。」
「大好きだよ、シズちゃん!」
「俺も、大好き…っ!」
椅子から立って近付いてきて、唇同士を軽く合わせて、それからちゅっと軽いリップ音をたてて俺から唇を離した。
さっき一緒に食べた、チョコレートの味がした。
「…ねぇシズちゃん。俺、ずっとシズちゃんと居たい。」
「…俺も臨也と居たいな…」
臨也の肩に顔を埋めて抱きつくと臨也が俺の首筋にちゅっと吸い付いた。また外に出れなくなるじゃねぇか。
「じゃあ一緒に住もうか!」
「……えっ」
「一緒に住もうよ、そうしよ?そしたらずっと、ずーっと一緒なんだよ。」
そりゃ一緒に住めたら幸せだろうけど、迷惑かけないだろうか。
「迷惑なわけないじゃん。だって大好きなシズちゃんと一緒に居れるんだもん。幸せだろうなぁ、一緒に住めたら!」
「じゃ、じゃあ…一緒に住む…」
「…!やったぁ!」
ぎゅうっと苦しいくらいに抱き締められて息が詰まりそうになる。
「ふふふ、じゃあ改めて、これからもよろしくねシズちゃん!」
「こちらこそ、よろしくな。」

end

………………………
1000hit企画にくれーぷ様にリクエストし、書いて頂いた臨静でございます!
誤解で擦れ違い→仲直りしてラブラブ、というの萌えます!←
弱々しい静雄も大好きです!
くれーぷ様、ありがとうございます!
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