※パソコンの中にいます

異変に気付いたのはついさっき。でも時は既に遅くて、僕では手に負えなかった。マスターが起動しない限り、きっとこれは対処できない。
このパソコンはウィルスに感染されているのだ。僕でさえも先程気付いたのだ、マスターもまだ気付いていないだろう。
「さいけ!一緒に歌お?」
何があっても、楽譜をもって無邪気にはしゃいで駆け寄って来る津軽だけはウィルスから守る。津軽に初めて出会って、一目惚れしてからずっと誓っていた。
「うん、歌う!」
「今回はでゅえっとそんぐ?だよね!さいけと一緒に歌えるの楽しい!」
にこにこと微笑む津軽を見て、僕の心の中での誓いが更に強くなる。
君の笑顔を見ることができるなら僕は手段を選ばない。君を僕が絶対守るから。
「僕もつがると一緒に歌えるの、すごく楽しい!」
「えへへ!さいけ、大好き!」
屈託なく笑う君の笑顔は僕の宝物だ。君を守るために、僕たちのいる部屋にはウィルスが入らないような対策をしている。
僕たち今が歌っている曲は、夫に先立たれた妻の気持ちを表現したものだ。
津軽が妻の気持ちを歌って、僕が先立った夫が妻を心配する気持ちを歌う。
津軽の声は心地良い。
演歌が得意だから心がこもっていて、曲に出る夫婦を自分と津軽に置き換えてしまって、涙が出そうになる。
「……さいけ?」
ねぇ津軽、僕たちがいる白い部屋に徐々にヒビが入ってるの、気付いてた?
「………つがる、」
ねぇ津軽、寝ている間に君にウィルスから守るための、ファイアウォールみたいなものをインストールしてたの、気付いてた?
「…どうしたの、さいけ?何か困ったことでもあるの?」
ねぇ津軽、僕には情報がぎっしり詰まってるから、それを入れるための空きがなくてインストールできないの、気付いてた?
「つがる、」
僕が津軽の薄いピンク色の唇に自分の唇を重ねた瞬間、白いドアが勢いよく開き、どす黒く汚い波が流れ込んできた。
「っなに、あれ……!」
遂にウィルスがここまで来ちゃったか。でも大丈夫、無垢な君は何も知らなくていい。僕が守るから。
僕は津軽を抱き締め、津軽を守るように黒く汚い波に背を向けた。
「さいけ!さいけぇ!」
僕の白いズボンとコートがどんどん黒く染まっていく。それでも僕は津軽を離さない。離すつもりもない。
やっぱり津軽に勝手にインストールして正解だったらしい、津軽は黒く染まることなく、黒い波の中でも白く美しく映えていて。
「さいけー!」
白い部屋がどんどん黒く染まっていく。僕も染まっていく。ウィルスは予想以上に強いらしい、僕が抵抗しようとするがなかなか身体が動かなくて出ていかない。
津軽、泣かないで?僕は君にそんな顔をしてほしい訳じゃないんだ、ね、笑って?
「っま、すた……たすけ…!」
津軽がそう言った瞬間、黒い波が嘘のように消えて。
本当に、手品のようにパッと消えて。
『もしかしてサイケ、ウィルスに感染してる?津軽、確認して。』
マスターが助けてくれたんだ、良かった、津軽が感染する前に来てくれて。
「さいけの服、真っ黒になっちゃった、ますた、どうしよう、さいけ、なおる?なおる?また、白くなる?」
相当混乱しているらしい、津軽がマスターに敬語を忘れるなんて珍しい。
『大丈夫、大丈夫だからサイケをそこに横にさせて。直すから、津軽はちょっと外に出て。』
なんだか、急に眠くなってきちゃった…どうしよう…津軽を見ていたいのに…
あぁ、今の僕たちって、デュエット曲の夫婦にそっくりだね。
「っさいけ…ますた、なおしてくれるって…だから、待ってて?」
目を閉じる前に見た津軽の顔は、とても美しかった。
『うん、上手いね。よく練習しました。』
「やったぁ!」
曲を歌い終えると、マスターが褒めてくれた。僕も嬉しい。
『じゃあご褒美に、しばらく休暇をあげるね。イチャイチャしててもいいよ。』
「ま、マスター!」
顔を真っ赤にしている津軽を見てマスターはクスクス笑うとシャットダウンした。
あれから僕の体内からウィルスが完全に除去されて、いつも通り、ちょっとしたことも笑い合って、一緒に練習して、好きな曲を歌って、一緒に話して。
すごく楽しい日が続いていて、あの時の苦労が嘘のようだ。
「つがる、大好き!」
津軽の身体をぎゅっと抱き締めて金色の髪に顔を埋めてみると、花のような、いい匂いがした。
「僕もさいけ、大好きだよっ」
僕の背中に手をまわしてぎゅっとしがみついてくる津軽。可愛い。
「ずっと、いっしょ!」
白く柔らかい頬にキスをすると、津軽は少し頬を赤くして僕の口にキスしてくれた。
「ずぅっと、いっしょ!」
えへへ、と花のように笑う津軽と一緒に居れる僕は、本当に幸せ者だね!
ずっと、ずっと、君を汚すもの、君を傷付けるものから、君を守るからね。
君の唇にキスを落とす。
誓いのキスを。

end

………………………
1000hit企画にくれーぷ様にリクエストし、書いて頂いたサイ津でございます!
くれーぷ様のサイトには小さいサイ津と大きいサイ津が居まして、どちらも凄く可愛いんです!
くれーぷ様、ありがとうございます!
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