お題&短編&お礼夢 | ナノ


▽ 11.微糖


「・・・苦い。」

私は思い切り顔をしかめて呟いた。そしてそのまま目の前の黒い飲み物に睨むような視線を送る。そんな私を見て目の前の透くんは苦笑いを浮かべる。

「だから言ったでしょう?優華には苦いですよ、と。」
「だって透くんがすごく美味しそうに飲むから案外ブラックも美味しいのかと思ったの。これ苦いだけだ・・・。」
「ブラックを飲みなれない人には苦いだけの飲み物でしょうね。」

頬杖を突きながらクスクスと笑いながらこちらを見る透くんに私は思わず唇を尖らせた。今日は久しぶりに透くんの家に遊びに来ていた。そしていつもの様にミルクたっぷりのカフェオレを作ってくれようとした透くんに「透くんと同じものがいい。」と言い出したのは私。その時の透くんのポカンとした顔は必見だった。その後「優華には美味しくないと思いますよ。」と言われたのが釈然としなかったので、強引に透くんと同じブラックコーヒーにしてもらったのだけど、確かに私の好みには合わなかった。透くんの言う通りだった。だけど。

「子供扱いしてるでしょ。」
「いいえ。可愛らしいなとは思いますけどね。」
「・・・それが子供扱いだって言ってるんだけど。」

私と透くんは10歳年が離れている。透くんは童顔なので実際に一緒に歩いているとせいぜい3〜4歳差くらいにしか見えないんじゃないかと思うけれど。でも実際の年の差は埋めることは出来ず、たまにこうして子供扱いされる。でも正直私はそれが不満だ。

ただでさえ透くんは本当の意味でイケメンだ。容姿はもちろんのこと性格も穏やかで優しく、料理だってパーフェクト。まさに完璧な男性。当然ながらバイト先のポアロでもてまくっていることも知っている。そんな透くんが私みたいな子供を好きでいてくれることが奇跡に等しい。だから早くもっと大人の女の人になりたい。透くんの隣に自信をもって並び立てるような、そんな女性に。

「じゃあ大人扱いしましょうか?」
「へ。」

そんなことを考えていた私の後ろにいつの間にか回り込んでいた透くんにぐいっと抱きしめられたと思ったら、後頭部を固定されて透くんの優しいキスが降ってきた。触れるだけの温かく、どこかくすぐったく感じられるキス。そう思った次の瞬間には唇を割って透くんの舌が差し込まれた。ぬるりと透くんの舌が私の舌を絡めとる。ゾクリと肌が粟立つような、そんな感覚に包まれる。しばらく透くんに翻弄された後ようやく解放された私は息を上げて透くんを見上げるしかなかった。そんな私を見て透くんは少し苦笑いを浮かべる。

「優華が何を考えていたのか当てましょうか。」
「え?」
「早く大人になりたい。もっと成熟した大人の女性になりたい・・・ってところでしょう?」
「な、なんでわかるの・・・。」
「優華は分かりやすいですからね。」

クスクスと笑いながら言う透くんに私は頬を膨らませる。・・・ああ、こういうところがまだ子供ってことなのか。自分自身でそんなことを思っていたら。

「僕はそのままの優華が好きなんですよ。無理な背伸びは不要です。ありのままの優華でいてくれたらそれでいいんです。」

耳元で甘い声でそんな甘い言葉を囁かれたと思ったら、さらに続けて米神にキスを落とされた。あまりのコラボにもう私は顔を真っ赤にさせて俯くしかなかった。

「透くん・・・私のこと甘やかしすぎじゃない・・・?」
「大人の特権です。」

嬉しそうにそう答えた透くんから再びキスが降ってきた。苦さが支配していた口内はいつの間にか甘く上書きされていた。


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