お題&短編&お礼夢 | ナノ


▽ こどもの日は家族の日


5月5日。天気は快晴。今日は国民の休日、こどもの日だ。子供達は鯉のぼりを眺めたり柏餅を食べたりと楽しく過ごす。それは降谷家でも例外ではなかった。組織壊滅後、降谷は安室透時代からの恋人であった優華と結婚した。重要任務を完了させたことにより、トリプルフェイスとして多忙極まる日を過ごしていた時よりは多少余裕がある時が増えたが、それでも昇進とともにそれなりに忙しい毎日を過ごしている。だが先月のとある日、息子である光が幼稚園でこどもの日について学んできた日、「こどもの日はパパと一緒に手作りの鯉のぼりを作る!」と意気込んでいることを知った降谷は、意地で仕事を片付けて5日を休みにすることに成功した。そうして降谷は今まさに光と一緒に鯉のぼり作りに励んでいる。

「パパー!ここやって!」
「どこだ?」
「ここ。うまく切れない・・・。」
「よし、パパが手伝ってやるから頑張ってみろ。」
「うん!」

二人して机に向かって一生懸命鯉のぼりを作る姿がとても微笑ましい。無意識に優華の口端はあがる。

降谷が潜入捜査していた組織が壊滅した後、「安室透」は実在しないことを伝えられると同時に「降谷零」との交際が始まった。最初は「安室透」との違いに随分戸惑った。「安室透」は穏やかで優しく、誰に対しても人当たりがよかった。対して「降谷零」は殊更無愛想というわけではないが、「安室透」ほど愛想はよくなく、真面目で堅物だった。「降谷零」を知れば知るほど、これでよく「安室透」を演じてきたものだと妙に感心してしまった。それくらい二人は別人としか言いようがなかった。降谷と付き合いだした当初は優華は本気で彼が自分のことを想ってくれているのか不安だったが、そんな不安はすぐに払拭されることになった。それほど降谷は優華に対して真っすぐな想いを見せて大切にしてくれたのだ。そうして色々と紆余曲折はあったものの、2人は結婚した。そして今5歳になる息子の光にも恵まれて穏やかな日々を過ごしている。

「ママー!出来たー!」

嬉しそうにパタパタとかけてくる光に優華は笑みを浮かべる。その手には降谷と一緒に作った紙で作られた鯉のぼりが握られている。

「上手に出来たね。」
「パパが教えてくれたの!だから僕も作れたよ!」
「そっか、よかったね。」
「うん!」

ああもうなんて可愛いんだろう。

満面の笑みに優華はそんなことを思う。自分がお腹を痛めて産んだ子だ。ただでさえ可愛いというのに、光はさらにプラスアルファな要素があった。

光は降谷によく似ていた。少し浅黒い肌に降谷よりは少し控えめな色味の金髪、整った顔立ち、そして綺麗な青の瞳。正直なところ優華に似たところがほとんどなかったことは産んだ立場としては少し複雑な気持ちではあったが、その分確実に将来は有望なのだからよしとすることにした。

「ママ、おやつできた?」

くりっとした瞳を輝かせて光は優華に尋ねる。

「出来たよ。じゃーん!ママお手製鯉のぼりケーキでーす!」

手作りのロールケーキに生クリームと苺をたっぷり使って鯉のぼりを再現したケーキは光のお眼鏡に叶ったらしく、光は満面の笑みを浮かべてはしゃぐ。

「やったー!ママすごーい!」
「うまく出来てるじゃないか。」
「半分くらいは零に手伝ってもらってるし、「安室さん」のお菓子作りの腕を知ってる身としてはその言葉も内心複雑だけど・・・。」
「手伝ってると言っても生地の下準備だけだろう。あとは優華が作ったんだ。それにお世辞抜きでうまく出来てると思うぞ。自信持て。」
「ふふ・・・ありがとう。」
「ママ!早く食べたい!」

光はすでに待ちきれないといった表情だ。

「じゃあカットしよっか。」
「あ、でも・・・。」
「ん?」
「鯉のぼりさん切ったらかわいそうだよね・・・。」

可愛すぎる!

困ったように鯉のぼりケーキをじっと見つめる光に、降谷と優華は揃って心の中で叫ぶ。降谷はしゃがみこんで光と視線の高さを合わせると、優しく頭を撫でる。

「光は優しいな。でもせっかくママが作ってくれたんだから美味しく食べよう。このままにしておいて傷んでしまう方が鯉のぼりが悲しむぞ。」
「そっか・・・。じゃあ食べる!」
「じゃあおやつの前に手を洗っておいで。」
「はーい!」

パタパタと洗面所へとかけていく光を見送りながら二人は笑みを浮かべる。

「光は元気いっぱいね。零と一緒に鯉のぼりを作れたことが本当に嬉しかったみたい。」
「そうか。・・・それにしても僕にこんなに穏やかな日が来るなんて思わなかったよ。」
「・・・零はずっと過酷な環境に身を置いていたものね。」

世界的な犯罪組織に命を懸けて潜入して三つの顔を使い分けながら日々を送る。それがどれほど神経をすり減らすものか、優華には想像もつかない。

「まあな。大切なものもたくさん失った。だけどその先で僕は君達二人という何より大切な宝物を手に入れた。・・・僕にこんな幸せを与えてくれて本当にありがとう。」
「私の方こそ。零がいて光がいて・・・本当に幸せよ。ありがとう。零。」

二人は顔を見合わせるとどちらからともなく顔を寄せる。あと少しで唇が触れるという瞬間。

「あー!パパとママ、チューしてる!」
「ひ、光!?」
「僕もまぜてー!」

手を洗って戻ってきた光は唇を尖らせて二人の元へ飛び込んでくる。そんな光に降谷と優華は笑みを浮かべると、それぞれ頬へとキスを落とす。大好きな両親のキスを受けて光は嬉しそうに笑うとケーキの元へとかけていく。降谷はその後に続こうとした優華の腕をそっと捕まえると、その唇に素早くキスを落とす。一瞬驚いた顔を見せた優華だったが、すぐに嬉しそうに笑うと光の元へと向かっていく。その後ろ姿を見送る降谷はとても穏やかな表情だった。


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