お題&短編&お礼夢 | ナノ


▽ 10.ひざまくら


その日、私と零の二人は久しぶりに一緒の休日を過ごしていた。私達が所属する警察庁警備局警備企画課、通称ゼロは非常に忙しい。常にいくつもの案件を抱えて仕事に追われているのが当たり前で、休みなどあってないようなものだった。特に零は安室透、バーボン、そして本来の降谷零という3つの顔を使い分ける生活を送っているため、1つの仕事が休みを取れても他の2つの顔としての仕事があるような状態だ。そんな状態なため滅多に休みらしい休みはないのだが、今日は全てにおいて休みという非常に珍しいことになっていた。さらに珍しいことに今日は私も休みだった。そうなれば当然の如く私達は貴重な休みを一緒に過ごしていた。

「膝枕してくれ。」

零お手製の昼ご飯を食べ終わった後、私達は隣り合って本を読んだりテレビを見たりしていた。そんな時、零の口から出た言葉に私は目を丸くすることになった。

「・・・今、なんて言った?」

一応聞こえてはいたのだけど、もしかすると聞き間違えたのかもしれない。そんな思いから私は零に聞き返した。

「だから膝枕してくれ。」
「・・・膝枕ってあの膝枕?」
「あの膝枕かどうかはわからないが、膝枕という言葉が示すものは一つしかないと思うが。」
「・・・珍しいね。零がそんなこと言うなんて。」

私は目を瞬かせながらも零が頭をのせることが出来るように足を整える。すると零はそっと自分の頭を私の膝にのせて、目を閉じる。その姿はただでさえ幼く見える零をより一層幼く見せている。

「・・・なんだ?」

ふふと笑う私の気配を感じたらしい零は閉じていたその瞳をそっと開ける。

「だって零ったら、なんか今日甘えん坊なんだもの。」
「・・・たまにはいいだろう。久しぶりの一緒の休みなんだ。少しでも近くにいたい。」
「そうね。」

その気持ちは私とて同じだ。私はそう言うと零の髪をそっと撫でる。さらりと流れるその髪は大して手入れをしていないらしいにもかかわらず、ひっかかることなくするりと指の間を流れていく。触れていてとても気持ちいい。

「君の手は気持ちいいな。」
「そう?零の髪も気持ちいいわ。これで何の手入れもしていないなんて本当信じられない・・・。私なんて髪のケアにどれだけ時間をかけてると思ってるのよ。・・・まさに女の敵だわ。」
「なんだそれは。」

零は苦笑いを浮かべると、私の撫でる手に意識を向けるかのようにその瞳を閉じる。その綺麗な青の瞳が隠れてしまったことに少し寂しさを感じながらもしばらくその髪を撫でていると、零の胸が規則正しく上下していることに気づいた。

「・・・零?」

小さな声で呼びかけてみるものの返事はなく、規則正しい寝息が聞こえるのみ。どうやら完全に寝入ってしまっているようだ。

零は本来決して人前で寝入ったりなどしない。ゼロとして3つの顔を使い分ける零は常に身の危険が付きまとっている。そのため常に気を張り巡らせて生活していると言っても過言ではない。そんな零が私の前で無防備とも思える姿で眠っているということは、私に心を許してくれているということの何よりの証といえるだろう。その事実に私は目を細めるとともに口端をあげる。

「おやすみなさい。零。ゆっくり休んでね。」


『それは甘い20題』より『10.ひざまくら』 by 【確かに恋だった】様


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