Masquerade | ナノ


▽ episode.12


安室から連絡が入ったのはそれから3日後の夕方だった。仕事の件だと思って電話に出た優華だったが、安室の口から出た言葉は予想外なものだった。

『今晩気分転換に少し遠出しようと思うんですけど、付き合って頂けませんか。』
「・・・透さん、暇なの?」

何の脈絡もなくそんな連絡をしてきた安室に対して、優華がそんな反応をしてしまったのも無理はないだろう。そんな優華の反応に対して安室が電話越しに苦笑いしているのが伝わる。

『まさか。こう見えても僕も色々と忙しい日々を送っていますよ。明日はちょうどお休みを頂けたんで少し気分転換をしたいと思いまして。』
「じゃあ私のことなんか構わなくていいからゆっくり休んだ方がいいと思うけど。」
『つれないですね。体を重ねた仲だというのに。』
「・・・っ!そういうことを言わないで!!」

爆弾発言を落とす安室に優華は顔を真っ赤にして言い返す。

『優華さんが付き合ってくれるなら言いませんよ。で、どうですか?』
「・・・わかったわよ。付き合えばいいんでしょ!?」

やけになって叫ぶように答えた優華に安室が面白そうに笑うのが電話越しに聞こえ、優華の怒りはますます増長したことは言うまでもない。

その後お互いの都合を擦り合した結果、19時に米花駅南口で待ち合わせということになった。15分前に優華が到着すると安室はすでに到着しており、車にもたれかかってスマホをみているようだった。その姿は悔しいほど絵になるなと思わずにはいられない程だ。あんな組織に身を落とさず普通の人として生きていれば、それこそ芸能人にでもなれたのではないだろうか。優華はふとそんなことを思いながら安室の元へ向かうと、優華に気づいた安室が笑みを向ける。

「透さん、待たせてごめんなさい。」
「いえ、僕もさっき着いたばかりですから。」

そう言いながら安室は助手席側にまわると、助手席のドアを開ける。相変わらずのレディーファースト徹底ぶりだなと思いながらも、優華はお礼を言いつつ、車に乗り込む。安室は運転席に乗り込むと、シフトレバーに手を伸ばして車を走らせ出す。

「それにしても本当透さんって物好きよね。わざわざ休み前の自由な時間に私なんかと・・・。」
「物好きって・・・あなたそれ自分で言ってて悲しくないですか?」
「いやいや透さんの隣に自信もって並び立てるわけないじゃない。さっきも車にもたれかかっている透さんがあんまりにも絵になりすぎてて、組織に入っていない一般人だったら芸能人になれたんじゃないかと思ったくらいだし。」
「はあ、そうですか。」

実際に優華が安室と話している時、周囲からの刺すような視線が本当に痛かった。振り返るのも恐ろしい気がしてさも何も気づいていないかのようにしていたけれど、正直勘弁してほしいと思ってしまった。あの数々の視線を安室が感づいていないわけもないのだが、何もなかったかの様に平然としているということは、安室にとってはあのような視線を向けられることが日常茶飯事過ぎて慣れてしまっているということだ。ある意味恐ろしいことである。

「それに透さん色々と忙しいんでしょう?」
「まあやることは確かにありますけど・・・色々、とは?」

チラリと優華に視線を送る安室の視線にどことなく剣呑な雰囲気を読み取り、優華はほんの少したじろぐ。

「だって透さん自身の組織の仕事以外にもベルモットの仕事の方の手伝いもさせられているんでしょう?透さんはベルモットのお気に入りって聞くから仕方ないのかもしれないけど、ただでさえ仕事量倍増じゃない?」

安室はベルモットのお気に入りで組織の仕事以外にもベルモットの仕事の手伝いをさせられていることは組織の中では周知の事実だ。それがそんなに知られたくないことなのだろうか。不思議そうに答える優華に安室は苦笑いを浮かべる。

「ああ、そういうことですか・・・。まあ確かにそれは否定できませんが、とりあえずもう今日はベルモットの仕事への付き添いは終わりましたからね。呼び出しはない予定なので大丈夫ですよ。」
「ふうん。いくらベルモットがあの方のお気に入りで気に入られたらメリットがあるとは言っても、そんなにプラスの仕事を振られちゃうんじゃ大変ね。・・・それでどこへ行くの?」
「とても綺麗な夜景ポイントがあるんですよ。あまり知られていないちょっとした穴場なんですが、そこなんていかがです?」
「夜景!?賛成!大好きなの。」
「では決まりですね。」

目を輝かせる優華に安室は笑みを浮かべる。その場所までは1時間程度かかるということだったが、車内では他愛もない話で色々と盛り上がっていたこともあり、それほど時間が経っていると感じさせないままに現地に到着した。穴場とはいえ他にも訪れている人達がいても不思議ではないのだが、タイミングがよかったのか、他に訪れている車はおらず、その場にいるのは安室と優華の二人だけだった。階段を上ったところにある大きな東屋からとびきり綺麗な夜景が眺められるとのことで、二人は階段を上り東屋を目指す。登りきったところで優華の目に飛び込んできたのは全方位に広がる光り輝く夜景だった。

「すごい・・・!とても綺麗!」
「気に入って頂けてよかったです。」

全方位で街の明かりがキラキラと輝いてみえる様子はまさに宝石箱といって謙遜のない様子だった。

「透さん、連れてきてくれてありがとう。」
「いいえ、最後にあなたに思い出に残るものを見せてあげられてよかったです。」

嬉しそうに振り返った優華に対して、安室は今まで一番甘く、柔らかい笑みをふわりと浮かべてそう答えた。けれどその表情にそぐわない何かを感じた優華は、安室の手元へと視線をやる。そしてその手に握られた物を見た優華は目を見開いて立ちつくす。

「透、さん?」

安室のその手に握られていたものは、拳銃だった。

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