秘密の部屋 | ナノ

▼ 14(02)


「決闘クラブ?」

ラピスは、ミルフィーユを器用に食べていた手を止めた。
玄関ホールの掲示板に張り紙が貼ってあったらしい。

「ねぇ、行きましょう?楽しそうだわ」

ブルストロードが言った。

「まぁ、何だか野蛮じゃない?」

グリーングラスが言う。
最近の事件の為の、ささやかな対策だろうか。
秘密の部屋の怪物と決闘が出来るとは思えないが。
ドラコは、周囲の生徒に得意気にルシウスから教わった呪文の話しをしている。

「ラピスも行くだろう?」
「……ええ」

ラピスの返事を聞いて、ドラコは満足そうに頷いた。
彼は、何も聞いてはこない。
あの時、私が盾の魔法を使用したことを。
気付いているだろう。
何を思っているのだろうか。
聞かれても返答のしようがない為、ありがたい気もするが。

――「皆さん、静粛に!」

彼は、きらびやかな紫色のローブを纏い、白い歯を見せびらかして舞台に登場した。
後ろに従えているのはスネイプ教授だ。

「ダンブルドア校長先生から、私がこの小さな決闘クラブを始めるお許しをいただきました!」

意気揚々に話す彼――ロックハートを見て、ラピスは溜息を吐いた。
よくスネイプ教授が彼の相手役を引き受けたものだ。(彼が言うには助手らしい)
スネイプ教授が、一瞬此方を見た気がした。
大広間は生徒で一杯で、ラピスは直ぐさま寮に引き返したくなったが、一度大広間に入ってしまったら出ることは困難を極めた。
両隣のグリーングラスとブルストロードが目を輝かせてロックハートの演説を聞いているのに対し、ラピスはうんざりして自身の杖を見つめていた。

決闘クラブに参加する気はない。
唯、見に来ただけだ。
きっとまた無意識に"能力に頼った魔法"を使用してしまうに違いない。
こんな大勢に見られてしまったら、今度こそ終わりだ。
――何が終わりだと言うの?

「ラピス、組みましょう?」

グリーングラスの声に、顔を上げるラピス。
いつの間にか、周りは二人組みになっていて、ブルストロードはハーマイオニーと組んでいた。
ハリーはドラコと組んでいる。
ドラコが此方を見ている。

「私は遠慮するわ」
「え?」

グリーングラスが不思議そうな顔をする。

「ミス・グリーングラス、あそこのレイブンクローの生徒と組みたまえ」

スネイプ教授だ。

「は、はい」

スネイプ教授に言われたならば仕方ないと、グリーングラスは渋々レイブンクローの生徒と組んだ。

ロックハートの合図で、あちこちで呪文が飛び交い始める。
"相手の杖を取り上げるだけ"という決まりは全く無視され気を失った生徒も大勢いた。

「まず見本を立てて行うとしましょう」

ロックハートの提案に、スネイプ教授がすかさず口を開いた。

「マルフォイとポッターはどうかね?」

薄ら笑いを浮かべるスネイプ教授とドラコ。
ハリーはおずおずと頷いた。
二人が舞台に上がり、生徒達は舞台の周り囲む。
ラピスは人混みに押され、最前列にやってきてしまった。

「やぁ、ラピス」

声をかけられ、隣にジャスティンがいたことに気が付く。

「ごきげんよう」

彼の得意げな笑みに、僅かに微笑みを返す。

スリザリンから、ハリーに対しての野次が飛ぶ。
ロックハートが合図を数える――しかし、ドラコはその途中で杖を振って大声で呪文を唱えた。
ハリーは吹き飛び、グリフィンドールから非難の声が上がる。
ハリーは立ち上がると、ドラコに呪いを飛ばした。
杖を取り上げる気などさらさらない。
相手を傷めつけたいだけだ。

「杖を取り上げるだけですよ!」

ロックハートがもう一度数を数え始める。
其処で、スネイプ教授はドラコに耳打ちをした。
何を教えたのだろう。
ドラコがにやりとしたところを見ると、碌なことではないだろう。

「サーペスソーティア!」

ドラコが叫んだと同時に、杖先から黒い蛇が出てきた。
大きくて、気味が悪い。
スネイプ教授はこれをドラコに教えたのだ。
生徒達の表情が引き攣る。
蛇は静かに進み、舞台の上を這いまわる。

「私が!」

ロックハートが杖を振り上げる。
ラピスは"しまった"と思ったが、時すでに遅し。
蛇はばーんという音と共に空中に舞い上がり、再び舞台の上に落下した。
蛇は立腹なようで、先程よりも興奮し、シューシューと音を立てて這う。
そして、ラピスとジャスティンの前までやってきた。
ジャスティンが唾を飲み込む音が聞こえた。
ローブから杖を出したいが、動けば蛇を刺激してしまう。
どうすれば……。
その時、聞いたこともない言葉が聞こえた。

「“手を出すな、去れ!”」

――蛇語だった。
それを紡ぐのは、他でもないハリー。
言葉は分からない。
しかし、ハリーが蛇を追い払おうとしているのは分かる。
そう、言っている気がするのだ。
ユニコーンの気持ちが汲み取れたように、何となくだが分かった。
しかし、それを分かるのはラピスだけ。
ジャスティンは震えていた。
恐怖に顔を引きつらせ、怯えていた。
スネイプ教授が杖を振って蛇を消し去り、ジャスティンは息を吹き返したように大きく息を吸った。
遠目で見ていたドラコは、安堵の溜息を吐いた。
ハリーは、"もう大丈夫だ"と言うようににっこり笑ってラピスとジャスティンを見たが、ジャスティンには、周囲の人間には、ハリーが蛇を追い払おうとしたことなど分からない。

「一体、何を悪ふざけしてるんだ?」

ジャスティンの声は、恐怖と怒りで震えていた。
ハリーはわけが分からず彼を見て瞬きした。
何故?僕は蛇を追い払おうとしたのに――。

「違うのよ、ジャスティン」

ラピスは大広間を出て行こうとする彼を引きとめる。

「何が違うって言うんだい?」
「ハリーは、」

そこまで言いかけた時、視界に"赤"が入った。
それはジャスティンの後ろから、真っ直ぐ、一直線に、ラピスに向かって飛んでくる。
あれは――、

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