「どうして、」
地下牢の入り口で、ドラコが立っていた。
会いたくない、と思っていたのに。
どうして良いのか分からないから。
彼は、気付いてしまっただろう。
「どうして、僕を庇ったんだ」
二つの内、どちらの質問がくるかと思っていたが、先にこの質問が来るとは……。
「分からないの」
「分からないって……」
「それなら、貴方は何故私を庇ったの」
「それは――…」
向かい合ったまま、沈黙が続く。
本当に分からないのだ。
何故彼を、彼女を庇ったのか。
ふくれ薬が爆発した時、ドラコは咄嗟にラピスに覆いかぶさり庇った。
しかし、これではドラコに薬がかかってしまう。
ラピスは、咄嗟に魔法の盾を展開させ、ドラコを守ったのだ。
故に、二人とも無傷だった。
「僕も、分からないんだ」
父上からの言い付けで近くに置いているだけの、唯の少女を、何故庇ったりしたのだろう。
「おかしいわね」
ラピスの口角が僅かに上がる。
「分からないならば、それで良いのではなくて?」
「え?」
ラピスの言葉を理解出来ず、ドラコは聞き返す。
「分からないまま、そのままの方が良いこともある、と思うわ」
僕が彼女を庇ったことは事実。
理由は分からない。
彼女が言う通り、分からないままで良いだろう。
分からないけれど、庇っていた。
――これで良い。
「……そうだな」
彼女が僕を疑うのはおかしいことではない。
父上は死喰い人で、彼女の一族を皆殺しにしたのは死喰い人だ。
マルフォイ家は代々スリザリンで、僕もそう。
おかしいことではない、でも――。
胸が痛んだ。
彼女に疑われることが?
彼女に敵視されることが?
分からない。
唯、分からないけれど、胸が痛んだ。
分からないままで良い。
ただ一つ確かな事は、彼女が僕を庇ってくれたと言うこと。
分からなくても良い。
その事実だけ、それだけで、良いと思える。
「ありがとう」
微笑む彼女は、きっと偽りのない真実(ほんとう)だろう。
そう信じたい。
「それにしても、何で奴等の鍋は爆発したんだろうな」
「……さぁ」
彼女の少し後ろを歩きながら、彼女の揺れる黒髪に手を伸ばしたくなる理由も、今は分からない。
13 それは弱さに似ていた(分からないのは、分かりたくないから)
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