秘密の部屋 | ナノ

▼ 13(04)


次の魔法薬学の授業で、ラピスとハーマイオニーは"こと"を起こす計画になっていた。
その"こと"とは、ポリジュース薬の材料をスネイプ教授の個人用薬棚でくすねてくるというものだった。
ハリーとロンは次に何かやらかせば、もう後がない。
それに、呪文が得意なラピスとハーマイオニーが実行した方が良いだろう。
しかしこの計画に、ハリーとハーマイオニーとロンは反対した。
しかし、ラピスは頑として譲らなかったのだ。

ペアであるドラコとふくれ薬を煎じながら、ラピスは室内の様子に目を配っていた。
ドラコとはあれから必要以外口を利いていない。
どちらも何も聞こうとはしないのだ。
知りたくないから、だろうか。
上辺だけで、それだけで円滑にやっていくことを二人は望んだ。
心底なんて元々知る由もない。
知ったとして、どうすると言うのだろう。
唯、彼は、死喰い人の息子で、私を騙そうとする人。
唯、彼女は、父上からの言い付けで近くに置いているだけの、ただの少女。
他に、何があると言うのだろうか。

「もうひと混ぜ、時計回りに」
「ああ」

ドラコは頷いて鍋の薬をひと混ぜする。
ラピスは前の席のクラッブとゴイルの鍋に視線を移す。
ぷくぷくと小さな気泡が湧いてくるのが見えた。
――そろそろだろうか。
ラピスはハーマイオニーに視線を送り、小さく頷いた。
その時、ラピスとドラコの前の席のクラッブとゴイルの鍋がぐつぐつと煮立ち始め、薬の色がどす黒く変わった。
そしてそれは、風船のように膨らんでいく。

「な、何だ?!」

ゴイルの声と共に、鍋の中の薬がばーんと大きな音を立てて爆発した。

「ラピスっ!」
「――っ?!」

薬はクラス中に降り注いだ。
勿論、鍋の近くにいたラピスとドラコは薬を多量に浴びる――筈だった。
これが、三人がこの計画を反対した理由だ。
ラピスが被害に遭うなんて、彼女がふくれ薬の餌食になるなんて、と。
しかし、ラピスは身体の何処も膨れてはいなかった。
いつもの綺麗な顔を蒼白にして、"信じられない"と言う表情をして、固まっていた。
そして、ラピスに覆いかぶさっているドラコも、ラピスと同じく固まっていた。
ふくれ薬がかかった生徒達は悲鳴をあげた。
突然の出来事に、生徒達はパニックに陥ったが、ラピスとドラコだけは、唖然としたまま動くことをしなかった。
否、出来なかったのだろう。

「どう、して……」

ドラコの声がぽつりと漏れた。
ラピスは何も言うことが出来なかった。
瞬きをすることも忘れて、ドラコの青灰の瞳を見つめる。

「あれ程沸騰させるなと言っただろう!薬のかかったものは此方に並べ!」

スネイプ教授の声で、周りの生徒達が動きだす。

「ふ、二人共、大丈夫……?」

周りの生徒達が、恐る恐る二人の様子を窺う。
何しろ、床に倒れたラピスにドラコが覆い被さっているという、異常な状況なのだ。

「っ、ごめん……」

ドラコは我に返ると、さっと頬を赤くして、ラピスから退いた。
ラピスはグリーングラスとブルストロードに支えられてのろのろと起き上がる。
スネイプ教授の視線が刺さる。
当たり前だ。
怒られるだろうか。

「頭を打ったかもしれないわ」
「医務室に行った方が良いわよ」
「大丈夫よ、ありがとう」

過剰な心配をする二人に微笑むと、ラピスは席に座った。
ドラコと目が合い、思わず逸らしてしまう。
彼は、何故――。
ハーマイオニーが戻ってきたことを確認して安堵するが、ラピスの頭は別のことで一杯だ。
混乱したまま、いつの間にか授業は終わっていた。
ラピスとドラコを心配する周囲が片付けをしてくれ、二人は動きもせず口さえも利かなかった。

「ミス・ミリアム、残るように」

やはり、ばれていた。
ハリー達は心配そうに此方を見ていたが、"大丈夫"と少し微笑むと、ラピスはスネイプ教授の後に続いた。

「すみません、咄嗟に使用してしまいました」

"能力に頼った魔法"を。

「生徒達は薬に気を取られていた。気付いたものは数名いたかもしれんが、取り敢えず様子を見る。校長には、我輩から伝えておく」

アルバスは最近忙しいらしく、留守が多い。
また約束を破ってしまった為に、アルバスを失望させてしまうだろうか。
まさか、使用してしまうとは思ってもいなかったのだ。

「寮に戻りたまえ」
「お手間をおかけして、申し訳ありませんでした」

私は、何故、あんなことを?
彼は、何故、あんなことを――?
彼に見られてしまったと言うのに、私の頭の中はなんて呑気なのだろう。
他の生徒にも見られてしまったかもしれない。
ロンにも、ハリーにも。

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