秘密の部屋 | ナノ

▼ 13(03)


変身術の授業で、ラピスはドラコと組んだ。
彼の魔法の腕の変化を見たかったのだ。
もしも腕が上がっていたとしたら、それを偽る能力は彼には未だないだろう。
彼の魔法を見れば、きっと何か気付くはず。
しかし、彼の魔法の腕はいつも通り。
蝶々はいつまで経ってもブローチにはならず、ブローチになったかと思えば、ぴくぴくと動くのだった。
結局、蝶々をブローチに変えたのはラピス。
ドラコはいつものようにラピスを褒め称え、マクゴナガル教授に十点を与えられた。
彼の腕は変わっていない。
妖精の魔法の授業でも観察をしたが、変化はなかった。
彼は白と言うことだろうか――否、未だ結論付けるには早いか――?

「ラピス、」

聞き覚えのある声に、歩いていたラピスとドラコは、立ち止まって振り返る。

「やぁ、ラピス。…と、マルフォイ君」

いつもの笑みを浮かべて、彼は片手を上げた。

「君に気安く呼ばれる覚えはない」

吐き捨てるように言って、ドラコは眉間の皴を深くする。
ドラコは余程彼、セドリックが嫌いらしい。
彼がハッフルパフ生だからだろう。

「ドラコ、」
「良いんだ」

窘めるラピスに、彼は言った。
これではどちらが育ちの良い人間なのか分からない。
否、育ちの良し悪しは裕福か否かの問題ではないが。

「少し、良いかな」
「……ドラコがいては困るかしら」

ラピスの言葉に、隣のドラコは目を見開いた。
今まで、必ず"先に行っていて"と言っていたのに。
そこで、はっとした。
最近の、彼女が僕を一人にさせない理由。
そうか、彼女は僕を疑って――。
だから僕を観察していたのだ。
ちくり、と胸が傷んだ。

「良いよ、僕は先に寮に戻るから」
「え……?」

今度はラピスが目を見開く番だった。
今まで、彼が素直にを頷くなんて。
"先に行って"と言っても引き下がらなかった彼が、どうして……。
まさか、彼は、やはり――。
ちくり、と胸が傷んだ。

「どうして、」
「良いよ、」
「………」

ドラコは寮に戻ろとし、ラピスはそれを引き止める。
しかし、互いに言葉が見付からない。

「心配しないで、僕は君が思っているようなことはしない
「――!」

青灰の冷めた瞳が、群青色に刺さる。
その感情のない表情に、ラピスの心臓が音を立てる。
どういう意味なのだろうか、彼は――。

「えっと……ごめん、またにするよ」

セドリックの声に、ラピスとドラコは互いに視線を逸らした。

「ごめんなさい、また時間を作るわ」
「うん、待ってるよ」

にっこり笑うセドリックに謝罪し、ラピスは視線を合わせないドラコに向き直る。

「行きましょう、ドラコ」

ドラコは無言で頷くと、ラピスと並んで歩きだす。
彼は、どういう意味で言ったのだろう。
私が彼を疑っていることに気が付いたのだろうか。
しかし、どう切り出せば良い?
彼が気付いているという可能性は高いが、下手に何か言って拗れてしまうのも困る。
知らないふりを、何もなかったことにした方が良いのだろうか。
彼の雰囲気が、触れるなと言っている。
無表情で前を見据える彼を見て、胸がじくじくと痛んだ。
それは、彼に何も聞くことが出来ない自身への苛立ちからくるものだろうと、ラピスは信じて止まなかった。

prev / next

[ back ]