秘密の部屋 | ナノ

▼ 11(03)


「はぁ……」

緊張の糸が切れたように、ドラコはソファに身を預けた。

――口を滑らせてしまった。
怯える彼女を見て、なんとか落ち着かせようと、なんとか安心させようと、つい出てしまった。
"純血だから"
それは真実だ。
父上から聞いたこと。
あの事件が起きて、直ぐに父上に手紙を書いた。
勿論ホグワーツの理事である父上は既にご存知だとは思ったが、彼女が、ラピスが倒れたことを報告する為に、手紙を書かなければならなかった。
原因は疲労ということで彼女は直ぐに退院したが、父上に事細かく報告するのが僕の役目だ。
彼女のことを報告するついでに、父上に秘密の部屋のことを聞いた。
父上は、手紙が誰かに読まれる危険があることを考えて詳しくは教えて下さらなかったが、大方のことは教えて下さった。

秘密の部屋は、ホグワーツの設立者で純血主義だったサラザール・スリザリンが残した部屋で、その部屋には恐ろしい怪物がいるのだと言う。
スリザリンの継承者のみが部屋を開けることが出来、怪物を操ることが出来る。
そしてその怪物は、マグル生まれを排除する。
と言うことは、僕達純血には何の害もない。
寧ろ、邪魔なマグル生まれが排除されるのは気分が良い。
あの憎たらしいグレンジャーや、鬱陶しいコリン・クリービーをさっさと始末してくれないだろうか。
なんてことを僕は考えていたのだけれど、何も知らない彼女は怯えていた。
だから、僕は言ってしまったのだ。
彼女は安全だ。
古くから純血の名家である彼女が、危険に晒されるわけはないのだ。
寧ろ、そんな境遇であれば、継承者に選ばれても不思議ではない。
しかし、彼女は純血主義ではない。
彼女が純血主義だったなら、もっと仲良くなれただろうか…。

あの事件が起きた時、僕は真っ先にドビーの言葉を思い出した。
"ラピスに危険が迫っている"
しかし、純血である彼女に、秘密の部屋の怪物は害を与えることはないだろう。
これでもないとしたら、一体何が彼女を危険に晒すと言うのだろうか。

――自室に戻り、ラピスは考えを巡らせていた。
"大丈夫、君は純血なんだから"
ドラコの零した貴重な手掛かり。
ラピスは、彼にカマを掛けたのだ。
秘密の部屋に恐怖するふりをした。
少々やりすぎたかとラピスは思ったが、彼は思っていたより簡単に口を滑らせた。
純血だから大丈夫、と言うことは、それ以外の者はどうなるのか。
マグル生まれの者や混血の者は、危険だと言うこと――恐らくそうだろう。
スクイブはどうなのだろうか。
フィルチではなく、ミセス・ノリスが襲われたのは何故だろう。
アルバスは知っているだろうか。
彼は、ミセス・ノリスを元に戻すことが出来なかった。
まず、何がミセス・ノリスを襲ったのだろうか。
生物を石にする力を持つ人――否、人ではないのかもしれない。
アルバスが治せなかったと言うことは、人ではない可能性が高いだろう。
ドラコは――どこまで知っているのだろう。

――「ラピス!」

朝食をとりに大広間に行くと、ロンが慌てて声をかけてきた。

「ごきげんよう」
「君の魔法史のレポート見せてくれない?あとたった六センチ足りないんだ!ハーマイオニーったら頑として見せてくれなくて!」
「当たり前、です!」

後ろから、ハーマイオニーが現れて、ロンのローブをぐいっと引っ張った。

「どうせラピスに泣き付くと思ってたわ!宿題は自分の力でやるものなのよ!」
「少しくらい良いじゃないか!」

ドラコのレポートを手伝ったことは、ハーマイオニーには黙っていなければ。
二人は、未だ言い合いを続けている。
昨夜ドラコから得た情報を話そうと思ったが、後にした方が良さそうだ。
それに、周りに人がいないところでは話した方が良い。
すると丁度、眠たそうな顔をしたハリーがロンとハーマイオニーの後を追ってきた。

「ごきげんよう、ハリー」
「おはよう、ラピス」

彼も、昨夜遅くまでレポートをやっていたのだろうか。

「ハリー、夕食後、話したいことがあるの」
「うん、分かった」
「図書館で何か収穫はあって?」
「ううん。【ホグワーツの歴史】は全部借りられてるし、他の載っていそうな本も全部なかった」

皆考えることは同じで、図書館はかなり混雑していたようだ。

「その話っていうのは、秘密の部屋のこと?」

ハリーが声を少し落として聞いて、ラピスは頷いた。

結局、ロンは六センチ足ないままレポートを提出することになったらしい。(ハーマイオニーは「自業自得よ」と言っていた)

午後の授業が残り呪文学だけになった頃、とんでもないニュースが学校中に広がった。
何でも、ハーマイオニーが魔法史の授業で、ビンズ教授に秘密の部屋について質問をしたそうだ。
ビンズ教授は"逸話だ"、"伝説だ"と言いながら、秘密の部屋について大方のことを教えてくれたらしい。
スリザリンにもその情報が入り、怯えていた純血の生徒達はすっかり安心し、マグル生まれの他寮の生徒を脅し始めた。
ドラコの言っていた、"純血は安全"と言うのは本当だったらしい。
ドラコは、秘密の部屋についてあれから語ろうとはしなかった。
もしかすると、ラピスのいないところで何か話しをしているかもしれないが。
昨夜口を滑らせた以上、かなり慎重になっているに違いない。

修業の鐘が鳴り、ラピスはドラコに隠れて呪文学の教室を出た。

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