「此処、誤字があるわ。それから、同じ文章が三文はあるわよ。最後に、五センチ足りないわ」
人気がなくなった夜の談話室で、二人は明日提出するレポートを広げていた。
「…それが限界だったんだ……直すよ」
ドラコは眉を下げて溜息を吐く。
項垂れた彼を見て、ラピスは小さく溜息を吐いた。
「…私の下書きで、清書で使わなかった文章があるからそれを書くと良いわ」
「ありがとうラピス!……君、レポートで下書きなんてするのかい?」
ドラコが目を丸くする。
「メモのようなものよ。いきなりレポートに取り掛かれる程、私は優秀じゃないもの」
と彼女は言うが、その"メモのようなものは"ドラコのレポートよりもずっと素晴らしい出来だった。
これをそのまま書いたら、自身が書いたものではないと丸分かりだ。
いくらビンズと言えど、気付かれるに違いない。
「静かね……」
人気のない談話室は、いつも異常に不気味だ。
「皆怖いんだろう」
得体のしれない事件が起こり、勿論スリザリン生も怯えている。
「貴方は怖くはないの?」
「僕は別に」
ドラコは何でもないように言った。
「私は怖いわ」
「大丈夫だよ、」
「何故そう言えるの?」
「え?」
ドラコは予想外の言葉と、ラピスの表情に驚き思わず聞き返した。
「あの猫のように、私も石になるかもしれない。得体のしれない何かに襲われるかもしれない」
「大丈夫さ」
「秘密の部屋が何なのかも分からないのよ?どうしてあの猫が石になったのかも分からない……」
いつもよりも饒舌になり、怯えたように言うラピスを見て、ドラコは戸惑う。
彼女のこんな様子を、始めた見たからだ。
「私、怖いわ…!」
自身の肩を抱き、俯いたラピス。
いつも毅然としている彼女からは想像出来ない姿だ。
「大丈夫、大丈夫だから!」
ドラコは落ち着かせようと、彼女の肩を擦る。
「でも、でも……!」
「君は純血なんだから!」
そう言った後、彼は"しまった"と言うような顔をした。
顔を上げたラピスは、それを見逃さなかった。
「純血であることが、何か関係があるの……?」
ラピスは静かに、恐る恐る聞いた。
「…いや…そんなような――噂を聞いたことがあるんだ」
彼は直ぐに平常心を持ち直す。
それは、持ち直したふりなのかもしれないが。
「……そう、少し安心したわ。ありがとう」
落ち着きを取り戻した彼女を見て、ドラコは微笑んだ。
そして、彼女も微笑む。
お互いに、偽りの笑みだ。
「疲れてしまったからもう寝るわ。そのメモ、あげる」
「ありがとう、助かるよ」
そう言ってまたお互いに微笑んで、ラピスは談話室を後にし、ドラコだけが残った。
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