「ラピス?」
次の訪問者は、ハリー、ロン、ハーマイオニーだった。
「驚いたよ、もう平気?」
「心配したのよ、貴女様子がおかしかったから」
「ええ、もう大丈夫。心配をかけてごめんなさい」
あの後、三人はロックハートの部屋で事情聴取を受け、完璧とは言えないが、なんとか疑いは晴れたらしい。
「大変だったわね」
「散々だよ、絶命日パーティーも、あれも」
ロンがうんざりしたように言ったが、"あれ"と言う言葉を聞いて、ハリーとハーマイオニーは深刻な表情になった。
「それでね、ラピス」
ハリーが声量を落とす。
「僕、あの時、ミセス・ノリスを見付ける前、声を聞いたんだ」
「声?」
「うん…」
「誰の?」
「それが、誰の声なのか分からないんだ。"引き裂いてやる、殺してやる"って言ってた。すごく恐ろしい声だったんだ」
誰の声か分からない、と言うのはどういうことなのだろう。
「その声がね、ハリーにしか聞こえなかったのよ。私もロンも何も聞こえなかったの」
何故ハリーだけに?
「声がする方を追いかけて行ったら、あそこに辿り付いたんだ」
「追いかけた、と言うことは、その声の主は移動していたと言うことかしら?」
「そう思うわよね」
「でも周りには誰もいなかったんだ。気味が悪いだろう?」
ロンが身震いする。
主が分からない声が、ハリーだけに聞こえて、その声は移動している。
けれど、主は何処にもいない。
謎だらけだ。
「分からないわね……」
ハリーだけに聞こえると言うのもおかしい。
「それで、ラピスは秘密の部屋って知ってる?」
「……確か」
本で読んだことがある。
興味がなかった為、はっきり記憶に残ってはいないが、確かに見たことがある。
「確か、スリザリンが残した部屋」
「スリザリン?」
三人が同じように聞いた。
「ええ。ホグワーツの創設者の、サラザール・スリザリン」
「どういう部屋なの?なんの為に残したの?」
ハーマイオニーが聞く。
「ごめんなさい、あまり記憶に残っていないの」
「調べてみる必要があるわね」
ハーマイオニーの言葉に、ラピスは頷いた。
サラザール・スリザリンについてあまり詳しくはないが、彼のことを良く書いている本はあまりない。
今のスリザリン寮から考えてみると、創設者の彼も、善人とは言えなかったのではないだろうか。
その後は、フィルチの話題になった。
なんと、彼はスクイブだったらしい。
だから彼は、魔法が使える生徒たちを憎んでいたのだ。
彼がスクイブだったことを、ロンとハリーは笑って話したが、ラピスは笑う気にはなれなかった。
彼が今までどんな気持ちでいたか、考えずにはいられなかったからだ。
可愛がっていた猫が襲われ、相当心を痛めていることだろう。
ハリー達は、授業が始まる数分前に急いで医務室を出ていった。
マダム・ポンフリーがぶつくさ一人で文句を言うのを聞きながら、ラピスはまたトムのことを考えていた。
彼は、私の"何か"を知っていると言った。
彼が出任せを言ったとは思えない。
彼は、本当に知っているのだろうか。
それは、私がずっと知りたかったことなのだろうか。
アルバスが言っていた、時が来れば知らなければいけないことなのだろうか。
それを早く知りたいと思うことは、彼の言い付けに背くことになるのだろうか。
でも、知りたい。
自分自身のことなのに、知らない方がおかしい。
何もかも疑問だらけだ。
また眠れば、彼に会うことが出来るだろうか。
しかし、どうしても眠れなかった。
あの真っ白な部屋が、空間が、彼が、あの赤い瞳が、怖かったからだ。
10 心奥の悲密(それを知った時、私は――)
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