秘密の部屋 | ナノ

▼ 10(03)


「こらっ、騒がしいですよ!」
「……?」

バタンと大きな音がしたかと思うと、マダムの声が聞こえた。
生徒が入って来たのだろうか。

「ラピス!」

名前を呼ばれると同時に、勢い良くカーテンが開けられる。
これも、去年の学年末と同じ光景だ。
違うのは、彼が抱き着いてはこなかったこと。
唖然としているセドリックと、ベッドで身を起こしているラピスを見て、彼は目を丸くした。

「ドラコ……」
「誰だ、お前は」

口を開いたかと思うと、セドリックに不躾な発言をする彼。

「セドリック・ディゴリーだ。よろしく」

彼は立ち上がり、にっこり笑ってドラコに手を差し出すが、ドラコは握ろうとはしない。

「ふん、ハッフルパフの奴なんかと握手するつもりなんてない」
「ごめんなさい、セドリック」

予想通りのドラコの反応に、ラピスはセドリックに謝り、彼は何でもないように笑った。

「僕は失礼するよ。ラピス、お大事にね」
「ええ。――ありがとう」
「また、ね」

その言葉に、ドラコの眉がぴくりと動いた。
セドリックは、ラピスに柔らかく微笑むと、医務室を去って行った。
ドラコは、彼が去って行った後も彼の座っていた椅子を睨んでいた。

「貴方、不躾すぎるわ」
「そんなことより、大丈夫なのかい?」

ラピスの言葉を遮って、ドラコは尋ねる。

「…ええ」

彼があまりにも深刻そうな顔で聞いてきた為、思わず頷く。

「良かった」

彼は、安堵して笑った。
先生に呼び出されたか何かで、今年も彼女はハロウィーンパーティに出席しなかった。
寮に帰る道で騒ぎに出くわし、強制的に寮に帰され、噂で彼女が倒れたことを知った。
しかし、事件の所為で寮から出ることを禁じられ、彼女に会いに行くことが出来なかった。
スネイプ先生に聞けば疲労が原因だったとかで、少し安堵した。
一限目が終わって医務室に飛んで来れば、なんと彼女の個室には先客がいた。

「さっきの、あのハッフルパフの奴……友達なのかい?」

見た感じ、年上の生徒だろう。
年上だろうが何だろうが、ハッフルパフの連中なんかと付き合うなんて。

「いいえ」

友達ではない。
決して、そんな間柄ではないだろう。

「違うの?」
「唯の知り合いよ」

彼女はきっぱり言った。
ドラコは満足したように頷くと、椅子に腰掛ける。

「疲労って、最近何か無理をしていたのかい?どうして言ってくれなかったんだ?」

疲労と言えば、いつでもしている。
あれこれ話しかけられ、見られ、常時彼に観察されているのだから。
しかし、倒れる程、私は何かに疲れていただろうか。

「何でもないのよ」
「本当に?言い出しにくいかい?」

何度も聞いてくるドラコ。
倒れたこともルシウスに伝えるのだろうか。
そして、あれこれ気遣うように言い付けられるのだろうか。

「きちんと言うわ。何かあれば言うから」
「うん、そうしてくれ」

彼は笑って頷いた。
そして、拳をきゅっと握った。

「じゃあ、また授業が終わったら来るよ」
「結構よ。もう平気だもの。自分で帰れるわ」

ラピスの言葉に彼は顔を顰める。

「そうはいかないよ。迎えに来るから、此処で待っていて」

そう言って、彼はラピスの返事も待たずに医務室を去って行った。

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