秘密の部屋 | ナノ

▼ 09(04)


結局、私は何を聞きたかったのだろう。
彼にどんな答えを求めていたのだろう。
セドリックの隣を歩きながら、ラピスは自問自答を繰り返す。

「ラピス?」
「え?」

名前を呼ばれて我に返る。
気付けば大広間まで来ていた。

「席が埋まっていそうだから、空いている席で一緒に食べない?って聞いたんだけど」
「ええ。ごめんなさい、考えことをしていて」

今日はハロウィーンパーティーだ。
夕食の席は、いつも通り寮別に別れているものの、時間が経ったからか、寮関係なしに生徒は自由に着席してパーティーを楽しんでいた。
スリザリンのテーブルにドラコの姿を確認して、さり気無くセドリックの後ろに隠れる。
色々と理由をつけて彼を撒いてきた為、セドリックと一緒にいるところをばれると面倒なことになる。

ラピスとセドリックはハッフルパフの最後尾の席に座った。
最後尾にはあまり人は座らない為、前の方よりも静かだ。

「何か取ろうか?」
「ありがとう、自分で取るわ」

セドリックの申し出を断り、ラピスは好きなものを皿に乗せる。

「っふ、」
「…?」

顔を上げると、セドリックが肩を震わせていた。
何かおかしいことをしたか、とラピスは小首を傾げる。

「ごめん、君がこんなに偏食だったとは思わなくて」

皿の上は、糖蜜パイ、パンプキンパイ、カップケーキ等、甘いものばかりだ。

「てっきりバランスよく食べていると思った」

彼女の外見や性格からすると、誰でもそう思うだろう。

「いつも甘いものしか食べないの?」
「いいえ、いつもはドラコが勝手に盛ってしまうから」

甘いものばかり食べさせてもらえないのだ。

「ああ、シーカーになった?」
「ええ」
「仲、良いんだね」

セドリックはにっこり笑って聞くが、ラピスは少しも微笑むことをしなかった。

「そうでもないわ」
「…そうなんだ」

彼女の表情を見て、セドリックはそれ以上聞くことをしなかった。

「ラピスじゃないか」
「久しぶりだな!」

食事を初めて数分、後ろから声をかけられて振り返ると、セドリックの友達、ダスティとアルノルトが満面の笑みを浮かべていた。

「おいセド、何処にいたかと思えばラピスと二人何してんだ」
「何って、食事だけど」

何でもないように答えて、彼はにっこり笑う。
ダスティとアルノルトは顔を見合わせた。
結局、二人も交えて食事を取り、穏やかな時間を過ごした。
彼等は陽気で、セドリックとは違ったタイプにも見えるが、本質はやはり一緒で、ハッフルパフ生だった。
普段しっかりもののセドリックも、偶にどじをしたりする事や、四年生の授業の内容等、彼等は話してくれた。

「楽しかったよ、ラピス」
「こちらこそ、ありがとう」

ドラコとはち合わせしないよう、早めに寮に戻ろうとした時、大広間に入ってきた生徒の声が耳に入った。

「ハリー・ポッターがミセス・ノリスを――殺した」
「っ!!」

ラピスは、弾かれたように立ち上がる。
嘘だ、そんなこと、あるわけが――

「ラピス!」

突然走りだした彼女を追って、セドリックも走りだす。

「待って!」

彼の言葉は、彼女の耳には入らない。
"ハリーのところへいかなければ"
それしか、彼女の頭にはなかった。
人集りが出来ている方へ向かって走り、人集りを掻き分ける。

「通して」

真っ青な顔をした彼女を見て、生徒達は驚いて道を開ける。
その後ろをセドリックが追う。
漸く人集りが空けて、彼女が足を止めると、其処には、ばおぞましい光景が広がっていた。
水浸しの床、壁には高さ三十センチ程の赤黒い文字が松明に照らされて、鈍い光を放っている。

"秘密の部屋は開かれたり
継承者の敵よ、気をつけよ"

そして、松明の腕木に尻尾を絡ませてぶら下がっている、ミセス・ノリス。
目をかっと見開き、硬直したまま、ぴくりとも動かない。
ハリー、ロン、ハーマイオニーは、ラピスに気付くと、彼女の様子に僅かに目を見開いた。

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