「絶命日パーティー?」
ハリー達と和解をして数日が経ったハロウィーンの前日、魔法薬学の授業後に、彼がラピスを呼び止めた。
「うん。君も一緒にどうかと思って」
絶命日パーティーとは、死んだ日を祝うパーティーで、ゴースト特有の文化だ。
「ごめんなさい、その日は予定があって」
彼女に予定が?
失礼だけれど、彼女に予定があることは珍しい。
しかし、ハリーは予定について聞くことはしなかった。
「そっか、残念だけど仕方ないね」
彼女はきっと、必要ならば自身に話してくれるだろうと思ったからだ。
「誘ってくれて、ありがとう」
「生きているうちに招待されるってすごく珍しいことよ!しっかり見てきて報告するから、楽しみにしていてちょうだい」
ハーマイオニーは、鼻息荒くラピスに言った。
「ええ、楽しんできて」
ハロウィーンの日、ラピスはセドリックと勉強会の約束があったのだ。
先月は色々と慌ただしかった為か、彼は勉強会の誘いの手紙を寄越してこなかった。
彼が忘れていたということはないだろう。
他人をよく気遣える人だ、と感心する。
「やぁ」
いつもと同じ席に座って、彼は、いつもと同じ笑みで言った。
「ごきげんよう」
図書室は人気が少なかった。
皆ハロウィーンに浮かれて図書館等には来ないだろう。
彼は、それを分かっていたのだろうか。
私が人混みが苦手だと言うことを察して、今日を指定してきたのだろうか。
「予定はなかったかい?」
「ええ」
「そう、良かった」
どうやら彼は、私が想像する以上に気遣いが出来る人らしい。
「ありがとう」
「……何が?」
それを無意識にやっているのだから、彼は本当に"良い人"なのだろう。
「スリザリン・チームのチェイサーになったんだって?」
「ええ」
噂は、勿論ハッフルパフの彼の耳にも届いていたようだ。
「じゃあ、君と試合をすることになるんだね」
「そうね」
彼はシーカーだから、直接クアッフルを奪い合ったり、と言うことはないけれど。
「スリザリンが他の寮と試合をした時、僕はスリザリンを応援するよ」
「……ありがとう」
ハッフルパフでスリザリンを応援する生徒はきっと、彼だけだろう。
――「闇の魔術に対する防衛術は……うーん、自分で勉強する必要があるだろうね。恐らく一年で規定の範囲まで終わりそうにないし」
ロックハートは他学年でもあの調子らしい。
「きっと、悪い人ではないんだけどね」
ラピスの知る限り、彼は人のことを悪く言うことをしない。
欠点を上げた後にも、利点を上げてフォローをするし、欠点を言っても悪く言うことをしない。
きっと、その人やそのものの利点欠点を、更には気持ちまでも汲み取ろうとするのだろう。
"嫌悪"と言う言葉が似合わない人だ。
ラピスの嫌悪の対象と言えば、無論、ヴォルデモートだ。
ヴォルデモートと、彼を取り巻くもの達。
嫌悪と言うよりも、憎悪、恐怖だろう。
彼には、そう言った存在がないのだろうか。
「貴方には、嫌悪する人がいて?」
「え?」
ラピスの突然の質問に、セドリックは字を書いていた手を止めた。
「嫌悪か……周りにはいないかな」
彼は暫く考えた後、そう言った。
「そう」
「でも、腹が立つこともあるし嫌な気持ちになることもあるよ。でも、どうしてもそれまでの過程を考えてしまって、怒ったり反論が出来ないんだ」
「過程?」
ラピスの問いに彼は頷く。
「例えば、魔法が使えない人が、魔法を使える人を嫌悪するとして。それは、全てその人の所為ではないだろう?」
スクイブは、誰の所為でもない。
「その人が魔法を使うことが出来たらそんな気持ちは抱かなかったはずだ。でも、誰が悪いわけではないしどうにも出来ない。だから、僕はその人を責めることが出来ないと思う」
ラピスは黙って聞いていた。
「勿論、だからと言って人を傷付けたり犯罪を犯したりしたらいけない。上手く言えないけど……うーん、難しいね」
彼は、眉を下げて困ったように笑った。
ラピスは、彼の言う通りだと思った。
それまでの過程――それは、誰にでもあることだ。
しかし、どんな理由があったとしても、人を傷付けたり犯罪を犯してはいけない。
世界は理不尽だ。
不幸も幸運も、誰でも平等に与えられるわけではない。
だから人は、敵対し、競争し、陥れ合うのだ。
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