「ラピス?朝食をとりに行かない?」
ノック音の後、ドア越しにグリーングラスの声が聞こえた。
「ごめんなさい、先に行っていて」
ベッドにネグリジェで寝転がったまま、ラピスは答えた。
身体を起こし髪をかき上げる。
あまり眠れなかった為に身体が重たい。
ドレッサーを覗き込むと、いつもより青白い顔に、薄っすら隈の出来た自身が鏡に映っていた。
ドラコとは和解をしたようなものの、ハーマイオニー達とはあれから会っていない。
会いたいけれど、会いに行く勇気がないのだ。
今日は日曜日で、授業はない。
彼等は朝食をとりに来ているだろうか。
――自分の口から言わなくては。
もう少し人と接することに長けていたならば、こんな些細なことで悩んだりしないものなのだろうか。
私にとっては、些細なことではないけれど。
外に出れば、またチェイサーのことについてあれこれ言われるに違いない。(昨日のうちに、全生徒が知ってしまったのだ)
しかし、いつまでもこうしていてはいけない。
ラピスは支度をして朝食をとりに行くことにした。
人気のない談話室を通り過ぎ、寮を出て地上に出る。
廊下に出たところで、見慣れた少女が入り口から少し離れた隅に座り込んでいた。
あの豊かな栗毛は――
「ハ、ハーマイオニー……」
「ラピスっ!」
ラピスの声に弾かれたように立ち上がり、彼女はラピスの元に駆け寄り、思い切り抱き付いた。
「ごめんなさい、私、私っ……!」
「ハーマイオニー…」
そっと身体を離すと、彼女は泣いていた。
ラピスと同じように、薄っすらと隈が出来ている。
彼女をこんなに悩ませてしまっていたなんて……。
「私、貴女に酷いことを言ったわ。何て、何て謝ったら良いか……」
「謝る必要なんてないわ」
「でもっ……!」
次から次へと溢れる彼女の涙を、ラピスがハンカチで拭う。
「私が…チームに加入したことを黙っていたのがいけなかったの。……言えなかったのよ、貴女達に軽蔑されるかもしれないと思って」
ハーマイオニーが目を見開く。
「軽蔑なんてするものですか!」
今度はラピスが目を見開く。
「それはそれ、これはこれよ!」
「それ?これ?」
「貴女がスリザリンだって、私達は友達でしょう?貴女がクィディッチ・チームに入ったからって、何も変らないわ。私達、友達だもの!」
彼女は、いつも嬉しいことを言ってくれる。
感情に素直で、真っ直ぐだ。
冷静な時もあれば、嘘のように感情的な時もある。
素直で、賢く、芯の強い彼女に、素直に憧れる。
「ハーマイオニー、貴女は素晴らしい魔女だわ」
「え?」
ラピスの突然の褒め言葉に、彼女は頬をぽっと染めた。
「マグル生まれだろうと純血だろうと、そんなものは関係ないのよ。だって、貴女は貴女なんですもの」
「……ありがとう、ラピス」
彼女ははにかみ、とろけるように笑う。
無垢で、綺麗で、幸せそうに。
私も、こんな風に笑うことが出来たら――。
「ハリーもロンも、会いたがっていたのよ」
大広間までの道のりを並んで歩く。
ハーマイオニーと和解することが出来て心に余裕が出来たのか、急にハリーに早く会いたくなった。
そう言えば、ドラコはもう大広間にいるのだろうか。
「ハーマイオニー、」
「?」
「ドラコ、あれでも選抜をパスしたのよ」
「え……?」
ハーマイオニーは目を丸くした。
「選抜をパスする為に、痣が何個も出来る程練習したのよ。彼の父親がチームに箒を買い与えたことは本当だけれど、彼なりに、努力をしたのだと思うわ」
ハーマイオニーは絶句していた。
「どうしましょう、私……」
「良いのよ、お互い様だもの」
ドラコも酷いことを言ったのだ。
彼は謝ることはしないだろう。
「ラピス、貴女って優しいのね」
「私が?」
ハーマイオニーの言葉にラピスは驚く。
「優しくなんてないわ」
私の、何を、何処を、見て、知って、言っているのだろう。
「そう言うと思ったわ」
ハーマイオニーは笑った。
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