秘密の部屋 | ナノ

▼ 07(02)


「去年のシーカーだったテレンスは七年生でね。卒業してシーカーに穴が開いたから、ドラコに加わってもらうことになったんだ」
「……そう」

それで?
ラピスは心の中で聞く。
それが一体何だと言うのだ。

昨日ドラコからシーカーに選ばれたことを聞き、今日、夕食の後に、ドラコにスリザリン・チームの更衣室に連れて来られた。
既に其処には、チームメンバーがいた。
誰がメンバーなのかは知らなかったが、ハリーが"トロールみたいだ"と言ったフリントは見たことがあった。

「チェイサーだったエイドリアンも七年生だった。去年で卒業したから、チェイサーも新しいメンバーが必要になった」

本当にトロールのようだ、とラピスは思う。

「で、今年からは君が新しいチェイサーだ」
「……は?」

今、彼は何と言った?
ちゃんと聞いていなかったが、理解の出来ない言葉だった気がする。
全く理解出来ない。

「だから、君が新しいチェイサーだ」
「…ご冗談はよして」
「冗談じゃない」

フリントは言った。
否、冗談だ。
私が、チェイサーだなんて。

「ドラコ、彼女に伝えなかったのか?新学期になったら直ぐ伝えるって言ってたじゃないか」
「貴方知っていたの?」

ラピスが目を見開く。

「ごめん、忘れてたんだ」

ドラコがさらりと答えた為、ラピスは不信に思う。

「そうか…まあ良い」

とフリント。
良くない。
そんな前から決まっていたなんて。
否、まだ決まってはいない。

「そう言うわけだから、宜しく、ラピス」
「私には出来ないわ」

フリントは手を差し出すが、彼女は握らない。

「君の箒捌きは何度も見てる。フーチも君は抜群に上手いって言ってたし、君以外いないんだ」

いつの間にそんなことを……。
箒で飛ぶことは嫌いではない。
しかし――、

「出来ないわ」
「どうして?」

困ったようにフリントが聞く。

「グリフィンドールと試合するのが嫌なのかい?」

ドラコの言う通りだ。
ハリーやフレッドとジョージと、試合上とはいえ対立するのは嫌だ。

「君、言ったじゃないか、"自分はスリザリンだからスリザリンを応援する"って」

確かに言った。
しかし、それとこれとは違う。

「でも、君が断ることは出来ないんだ」

フリントが、悲しげに眉を下げた。
わざとらしいその表情に、ラピスの眉間に皴が寄る。

「今年のメンバーのエントリーシートを提出してしまったんだ。チェイサーの欄には、君の名前を書いた」
「何ですって?」

ラピスが更に目を見開く。
何て狡猾なのだろう。
エントリーシートを提出してしまっては、拒否することが出来ない。

「ドラコが、新学期に入ったら直ぐに君に言うと言っていたんだよ。だから僕等は、てっきり君がもうオーケーしてると思ってた」
「貴方、わざと言わなかったのね」

ラピスに鋭い視線を投げられ、ドラコは身体をびくりとさせた。

「違うんだ、本当に忘れていたんだよ」
「そんなに攻めないでやってくれ」

他のメンバーがドラコを擁護する。
これも作戦なのだろう。

「私の名前を書いても、変わりの人が出場すれば良いわ」

代理選手を立てる事は可能だ。

「君に欠場する理由がないだろう?それに、君以上の実力がある人なんていない」
「頼むよ、チームの為なんだ。今年こそ寮対抗で優勝したいんだ」

懇願するメンバー達。
ラピスは頭を抱えた。
七人の男子生徒に言い寄られ、どうして良いのか分からない。
寮対抗で優勝したいという気持ちは、彼等の本心だろう。

「……一年だけ。一年だけなら」

はっきり断ることが出来ない自分に嫌気が差す。
ラピスは溜息を吐いた。

「ありがとう!これで優勝間違いなしだ!」
「五年生のマーカス・フリントだ。キャプテンをやっている。よろしく」
「四年生のグラディス・モンタギューだ。君と同じチェイサーだ。宜しく」

ラピスは次々に差し出される手を適当に握り返す。
スリザリン・チームには女性選手がいなく、ラピスは紅一点だ。
新しいシーカーとチェイサーを加え、今年のスリザリン・チームは完成した。

「もう一つ、我等を優勝に導いてくれるものがある」

フリントが誇らしげに言った。

「ドラコの父上が、箒を買って下さった。全員にだ」

フリントの言葉に、メンバーが喜びの声を上げる。
だからドラコがここまで優遇されているのか。
本人も必死に練習をしたようだし、決して箒のお陰だけではないだろうけれど。

「ニンバス二○○一。最新型だ」

すらっとした漆黒の柄に、整った綺麗な尾は僅かに傾斜がある。
足を乗せるための金属スタンドはぴかぴかに光っていて、持ち手の先端には焼印がある。
ふんぞり返るドラコを横目に、ラピスはルシウスのよこした箒に乗る事に、不安が募った。

「来週から練習を開始する」

彼等に、何と言ったら良いのだろう。
それとも、わざわざ報告する必要なんてないのだろうか…?
まともにプレイが出来るだろうか。
彼等は、私のことを何と思うだろう。
軽蔑――するだろうか……?

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