昨日は、彼女にとんでもない醜態を見せてしまった。
かっこよく助けたのは良いが(結局彼女に助けられたのだが)、腰を抜かして暫く立てなかった。
本当に怖かったからだ。
でも、身体が勝手に動いていた。
パーキンソンには悪いが、僕は彼女を助けることに必死で、どうにかして彼女をシャンデリアの下から離そうとしたが、彼女は首を横に振った。
「大丈夫よ」
そう言った彼女が展開させた魔法の盾に守られ、僕達は無事にあの教室から出ることが出来た。
二年生が、あれほどの広範囲で強度のある盾を作り出せるなんて。
彼女はすごい。
僕が思っていたよりも、彼女はずっとすごいのだ。
「だって…約束したじゃないか」
そうは言ったものの、途端に恥ずかしくなって、最後まで言うことは出来なかった。
約束した。
誓った。
それを思い出したのは、ピクシーだらけの教室を出た後。
あんな状況の中では、誓ったことなんてこれっぽっちも覚えていなかった。
ギルデロイ・ロックハート――まさかあいつが彼女を危険に晒す人物?
あんな馬鹿な奴が?
ピクシーを放ったのは奴だが、ピクシーが何をするかまでは分からない。
奴だと言う線は、恐らくなしだ。
どっちにしろ、奴には近寄りたくない。
彼女が奴のファンだったらどうしようかと思った。
フルーツを口に運ぶ彼女を、通りすがりの一年生が頬を染めて見ている。
一年生の分際で彼女に好意を抱くなんて生意気な。
睨んでやると、一年生は逃げるように去っていった。
「まったく……」
僕は、彼女に報告しなければいけないことがある。
フリントに早くしろと急かされている。
とうとう集まりは明日になってしまった。
早く言わなければ。
でも、何て切りだそう。
"ビックニュースがあるんだ!"
"聞いて驚くなよ?"
どう言えば、彼女は表情を変えてくれるだろうか。
「何?」
彼女が僕の視線に気付き、顔を上げた。
「な、何でもないよ」
慌てて答えると、彼女は直ぐに僕から視線を逸らし、遠くの方を見つめてカップケーキを上品に食べている。
恐らく、僕がどんなテンションで話そうとも、彼女は冷静沈着無表情だろう。
彼女の視線の先を追うと、丁度ポッターとウィーズリーが大広間に入って来たところだった。
ポッターは物陰に隠れながら不審者のような動きをしている。
そして、後ろからカメラを持った一年生に声をかけられて飛び上がり、うんざりした顔をした。
「良い気になっちゃって」
ふん、とパーキンソンが鼻を鳴らす。
まったく、良い気になりやがって。
サインを求められているポッターに、心の中で悪態を吐いた。
「あんなののサインを求めるなんて、求める方も狂ってるわ」
「あら、私は貰ったわよ」
パーキンソンの悪態に、黙っていたラピスがさらっといった。
ハリーの大ファンのコリンも悪気があるわけではないのだが、もう少し大人しくしていられないものだろうか。
ハリーの金魚の糞のようにくっついている彼は、きらきらした瞳でハリーを見るものだから、きっと優しいハリーも強く言うことが出来ないのだろう。
コリンが夢中になる程、ハリーは素晴らしい人なのだ。
「何だって?」
「私が頼んだのよ」
驚くドラコにそう言うと、ラピスは席を立った。
「ラピス!」
何で、いつもポッターなんだ。
何で、どうして――!
「待って!」
黒髪を揺らして歩く彼女を追いかけて、広間の出口で彼女の手首を掴んだ。
「何?」
いつものように感情の籠もっていない声で言って、彼女は振り向く。
「君に……報告があるんだ」
いざ口に出そうとすると何故だか緊張して、何を言えば良いのか混乱する。
「――僕が、なって、…じゃなくて、えっと、シーカーに、新しい、」
「え…?」
何を言ってるんだ!
ばらばらの単語が勝手に口から飛び出し、何が言いたいのか分からない言葉になってしまった。
「違うんだ、」
「あら、シーカーになったのではないの?」
「え?」
「違って?」
小首を傾げる彼女。
賢い彼女は、どうやら僕のばらばらの単語を組み立ててくれたようだ。
「違うくない、僕、シーカーになったんだ」
言いたかった言葉をやっと言えて、何だか胸が軽くなった。
「ビックニュースってそれだったのね」
「そうなんだ」
そう言えば、手紙にそんなことを書いたっけ。
ドラコは誇らしげに腰に手を当てる。
「何か言いたげだったのはこの所為だったの」
早く言いたかったけれど、いざ言おうとするとどうにも言えなかったのだ。
彼女の反応は予想通り。
特に表情を変えることなく、大して興味もなさそうで。
ポッターのいるグリフィンドール・チーム以外、興味がないのか?
「――貴方、きちんと努力出来るのね」
「え?」
呟くように言ったラピスの言葉を、ドラコは理解出来ずに聞き返す。
「傷だらけになる程、練習したのでしょう?」
マダム・マルキンの店でのことを、まさか彼女が覚えていたなんて。
と言うか、あのやりとりが聞こえていたのか。
恥ずかしいやら嬉しいやらで何も言えなくて、こくりと頷くと、彼女は言った。
「おめでとう、ドラコ」
今なら(勿論今だけじゃない)最高のプレイでポッターをこてんぱに出来る気がする。
久しぶりに見た彼女の優しい笑みは、やっぱり綺麗だった。
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