秘密の部屋 | ナノ

▼ 07


昨日は、彼女にとんでもない醜態を見せてしまった。
かっこよく助けたのは良いが(結局彼女に助けられたのだが)、腰を抜かして暫く立てなかった。
本当に怖かったからだ。
でも、身体が勝手に動いていた。
パーキンソンには悪いが、僕は彼女を助けることに必死で、どうにかして彼女をシャンデリアの下から離そうとしたが、彼女は首を横に振った。

「大丈夫よ」

そう言った彼女が展開させた魔法の盾に守られ、僕達は無事にあの教室から出ることが出来た。
二年生が、あれほどの広範囲で強度のある盾を作り出せるなんて。
彼女はすごい。
僕が思っていたよりも、彼女はずっとすごいのだ。

「だって…約束したじゃないか」

そうは言ったものの、途端に恥ずかしくなって、最後まで言うことは出来なかった。
約束した。
誓った。
それを思い出したのは、ピクシーだらけの教室を出た後。
あんな状況の中では、誓ったことなんてこれっぽっちも覚えていなかった。

ギルデロイ・ロックハート――まさかあいつが彼女を危険に晒す人物?
あんな馬鹿な奴が?
ピクシーを放ったのは奴だが、ピクシーが何をするかまでは分からない。
奴だと言う線は、恐らくなしだ。
どっちにしろ、奴には近寄りたくない。
彼女が奴のファンだったらどうしようかと思った。

フルーツを口に運ぶ彼女を、通りすがりの一年生が頬を染めて見ている。
一年生の分際で彼女に好意を抱くなんて生意気な。
睨んでやると、一年生は逃げるように去っていった。

「まったく……」

僕は、彼女に報告しなければいけないことがある。
フリントに早くしろと急かされている。
とうとう集まりは明日になってしまった。
早く言わなければ。
でも、何て切りだそう。

"ビックニュースがあるんだ!"
"聞いて驚くなよ?"

どう言えば、彼女は表情を変えてくれるだろうか。

「何?」

彼女が僕の視線に気付き、顔を上げた。

「な、何でもないよ」

慌てて答えると、彼女は直ぐに僕から視線を逸らし、遠くの方を見つめてカップケーキを上品に食べている。
恐らく、僕がどんなテンションで話そうとも、彼女は冷静沈着無表情だろう。
彼女の視線の先を追うと、丁度ポッターとウィーズリーが大広間に入って来たところだった。
ポッターは物陰に隠れながら不審者のような動きをしている。
そして、後ろからカメラを持った一年生に声をかけられて飛び上がり、うんざりした顔をした。

「良い気になっちゃって」

ふん、とパーキンソンが鼻を鳴らす。
まったく、良い気になりやがって。
サインを求められているポッターに、心の中で悪態を吐いた。

「あんなののサインを求めるなんて、求める方も狂ってるわ」
「あら、私は貰ったわよ」

パーキンソンの悪態に、黙っていたラピスがさらっといった。
ハリーの大ファンのコリンも悪気があるわけではないのだが、もう少し大人しくしていられないものだろうか。
ハリーの金魚の糞のようにくっついている彼は、きらきらした瞳でハリーを見るものだから、きっと優しいハリーも強く言うことが出来ないのだろう。
コリンが夢中になる程、ハリーは素晴らしい人なのだ。

「何だって?」
「私が頼んだのよ」

驚くドラコにそう言うと、ラピスは席を立った。

「ラピス!」

何で、いつもポッターなんだ。
何で、どうして――!

「待って!」

黒髪を揺らして歩く彼女を追いかけて、広間の出口で彼女の手首を掴んだ。

「何?」

いつものように感情の籠もっていない声で言って、彼女は振り向く。

「君に……報告があるんだ」

いざ口に出そうとすると何故だか緊張して、何を言えば良いのか混乱する。

「――僕が、なって、…じゃなくて、えっと、シーカーに、新しい、」
「え…?」

何を言ってるんだ!
ばらばらの単語が勝手に口から飛び出し、何が言いたいのか分からない言葉になってしまった。

「違うんだ、」
「あら、シーカーになったのではないの?」
「え?」
「違って?」

小首を傾げる彼女。
賢い彼女は、どうやら僕のばらばらの単語を組み立ててくれたようだ。

「違うくない、僕、シーカーになったんだ」

言いたかった言葉をやっと言えて、何だか胸が軽くなった。

「ビックニュースってそれだったのね」
「そうなんだ」

そう言えば、手紙にそんなことを書いたっけ。
ドラコは誇らしげに腰に手を当てる。

「何か言いたげだったのはこの所為だったの」

早く言いたかったけれど、いざ言おうとするとどうにも言えなかったのだ。
彼女の反応は予想通り。
特に表情を変えることなく、大して興味もなさそうで。
ポッターのいるグリフィンドール・チーム以外、興味がないのか?

「――貴方、きちんと努力出来るのね」
「え?」

呟くように言ったラピスの言葉を、ドラコは理解出来ずに聞き返す。

「傷だらけになる程、練習したのでしょう?」

マダム・マルキンの店でのことを、まさか彼女が覚えていたなんて。
と言うか、あのやりとりが聞こえていたのか。
恥ずかしいやら嬉しいやらで何も言えなくて、こくりと頷くと、彼女は言った。

「おめでとう、ドラコ」

今なら(勿論今だけじゃない)最高のプレイでポッターをこてんぱに出来る気がする。
久しぶりに見た彼女の優しい笑みは、やっぱり綺麗だった。

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