秘密の部屋 | ナノ

▼ 06(03)


「あんな奴に教わる事なんて何もないね」
「で、でも彼、色んな功績を上げているわ」

おずおずと言うブルストロードに、ドラコは眉を顰める。

「それに彼、ハンサムよ」
「どこが?ドラコの方が何百倍も素敵よ」

グリーングラスに、パーキンソンがつんと言った。

「彼って素敵よね、」
「そう思うでしょう?ラピス」

今度はラピスに同意を求める女生徒達。

「私は…生理的に好きにはなれないわ」

彼女の答えを聞いて、顔を見合わせる女生徒達。
ドラコは安堵の笑みを漏らした。

「やぁ、皆さん!」

教室にロックハートが入ってきて、数人の女生徒が小さな黄色い声を上げた。

「さぁ、席について!私を少しでも近くで見ていたい気持ちはよーく分かります。でも、私は授業をしなければならないのでね。あとでいくらでも観賞タイムをあげますよ」

とロックハートがウインクを投げた。
男子生徒が呆れたように溜息を吐く。

「ギルデロイ・ロックハート。勲三等マーリン勲章、闇の魔術に対する防衛術連名名誉会員、そして"週刊魔女"五回連続"チャーミング・スマイル賞"受賞──もっとも、私はそんな話をするつもりではありませんよ。バンドンの泣き妖怪バンシーをスマイルで追い払った訳じゃありませんしね!」

ロックハートは皆が笑うのを待ったが、ごく数人が曖昧に笑っただけだった。
非常に面倒そうな人だと、ラピスは思った。
その後ロックハートは、ミニテストと称したくだらない質問が書かれた用紙を配った。

一、ギルデロイ・ロックハートの好きな色は何?
二、ギルデロイ・ロックハートの密かな大望は何?
三、現時点までのギルデロイ・ロックハートの業績の中で、あなたは何が一番偉大だと思うか?

何ともくだらない。
ラピスは白紙でテスト用紙を提出した。

「ちっちっちっ…殆どが私の好きな色はライラック色であることを覚えていないようですね。【雪男とゆっくり一年】の中でそう言っているのに。【狼男との大いなる山歩き】をもう少ししっかり読まなければならない子も何人かいるようだ」

ロックハートは集めたテスト用紙を確認して話し始めた。

「何か書いたかい?」
「いいえ、何も」
「僕もだ。書く気にもなれない」

初めて、ラピスはドラコと意見が一致した。

「ん?…ミリアム?あのミリアム家ですね!」

名前を書くべきではなかった、とラピスは思った。

「ミス・ミリアム、何処にいるかな?さぁ、立って!」

立ち上がる彼女を見て、ロックハートはにっこり笑った。
羨ましそうな女生徒達の視線が突き刺さる。

「やぁ、綺麗なお嬢さんだ!いや、言わなくても良い。私の方が美しいことは分かっていますからね!」

ドラコや数人の男子生徒は、呆れて物が言えないという表情でロックハートを見つめていた。

「君の一族はとても有名だね!いやいや、言わなくていい。私の方が有名で偉大な魔法使いだと言うことは分かっていますからね!」

早く座らせて欲しい。
ラピスはクィレルの授業の方が何倍もましだと思った。
未だにクィレルのことを思い出すと、胸がちくちくと痛んだ。

――「どうか、叫ばないようお願いしたい。連中を挑発してしまうかもしれないのでね」

その後は、最早授業とは言えなかった。
ロックハートが籠一杯のピクシー妖精を教室に放ち、教室は大混乱になったのだ。
ピクシーはロケットのように四方八方に飛び散り、窓ガラスを割り、ゴミ箱をひっくり返し、教室中にインクを振り撒き、本やノートを引き裂き、壁から写真を引っぺがし、本や鞄を奪って破れた窓から外に放り投げ――生徒達は悲鳴を上げて教室から逃げ出した。

「やめてちょうだい」

一言言うと、ピクシーはラピスの髪を引っ張るのをやめた。
ロックハートは、ピクシーと肖像画の取り合いをしている。

「痛い!」

グリーングラスが数匹のピクシーに髪を引っ張られて金切り声を上げた。
ラピスは杖を振って呪文を唱え、彼女からピクシーを引き離した。

「ありがとう、ラピス」

教室を見回すと、いつの間にかロックハートは消えている。
逃げたのだ。

「やめて!お母様に買ってもらったのよ!」

ブルストロードがピクシーに髪飾りを取られているのを見つけ、ラピスはピクシーに失神呪文をかけた。

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