秘密の部屋 | ナノ

▼ 06(02)


温室に行くと、ロックハートに肩を抱かれて引きずられていくハリーが見えた。
前の時間に、グリフィンドールとハッフルパフが合同で授業していたらしい。
次はスリザリンとレイブンクローが合同で授業を行うのだ。

「ポッターも好かないが、あれも気に入らないな」

ドラコが、ハリーとロックハートの後ろ姿を見て目を細める。
彼の言葉にクラッブとゴイルが頷く。
ラピスもロックハートが苦手だ。
接していなくとも、遠くから見ているだけでも分かる。
彼の授業が憂鬱だ。

「やぁ、ラピスじゃないか!」

大きな声に驚いて振り返ると、にっこり笑ったアーニーがいた。
スリザリン生は露骨に嫌な顔をして彼を見る。

「会いたかったよ、元気かい?」

会いたかったも何も、昨日会ったばかりだ。
あれから一日も経過していない。

「彼女に気安く話しかけるな」

ラピスが口を開く前に、ドラコがずいっと彼女とアーニーの間に入った。

「何だよ」
「聞こえなかったか?彼女に気安く話しかけるなと言っている」
「ドラコ、」

ラピスがドラコを呼ぶが、彼はアーニーを睨んだままだ。
アーニーも肝が座っている。
彼の後ろのハッフルパフ生は彼を心配そうに見ている者もいれば、巻き込まれないよう足早に温室を後にする者もいた。

「僕は君に話しかけたんじゃない、マルフォイ。彼女に話しかけたんだ」

アーニーの大袈裟な口調や身振り手振りが、ドラコをいらいらさせる。

「何度言えば分かるんだ」
「彼女は君の物じゃないだろ?君が口出しすることじゃない」

その言葉に、ドラコの眉間に深い皴が寄った。

「出来損ないで落ちこぼれのハッフルパフのくせに」
「何だと!」
「ドラコ」

少し大きな声でラピスが彼を呼べば、彼は開きかけた口を閉じた。
アーニーは、怒ってドラコに飛びかかろうとしたが、直ぐにクラッブとゴイルがアーニーの腕を掴んで止めた。

「離して」

ラピスがクラッブとゴイルに言うと、二人はゆっくりアーニーを離した。

「行くぞ」

ドラコはクラッブとゴイルを呼び、アーニーを睨むと、温室に入っていった。

「…ごめんなさい」
「良いよ、君が悪いんじゃない」

温室から少し離れ、ラピスはアーニーに謝罪した。

「ハッフルパフは出来損ないでも落ちこぼれでもないわ」

現に、セドリックのようなとても優秀な生徒もいるし、他にも優れた生徒はいるだろう。
正しく忠実で、忍耐強く心優しいハッフルパフ生は、スリザリン生よりもよっぽど育ちが良い。

「とても素晴らしい寮だわ。だから、」
「ありがとうラピス!」

ラピスの言葉を遮って、アーニーが感嘆の声を上げた。
そして、彼女の手を取ってぶんぶん振った。
まるで自分自身を褒められたかのように喜び、頬を染めた彼に、彼女はまたも困惑する。

「君は容姿だけじゃなくて心まで美しい!」
「そんなことないわ…」

直ぐに否定したが、アーニーは聞いていない。
彼はラピスの手を何度も握って振って褒め称えると、興奮が収まらない様子で去って行った。

「はぁ……」

何か余計なことまで言ってしまっただろうか。
更に面倒なことになってしまった気がする。
彼は悪い人ではないのだが、彼と接することは、如何せん疲れる。

「ハッフルパフは出来損ないでも落ちこぼれでもないわ」
「君だけだよ、そんな事思っているのは」

ドラコは呆れたように小さな声で言った。
恐らく本音だろう。

「これからは、自分で何とかするわ」
「え?」
「ありがとう、助けてくれて」

ほんの少し微笑んだ彼女は、今日も綺麗だ。
彼女はどうしてこう、僕の気持ちを掻き乱すのだろう。
喜んだり落ち込んだり、忙しい程ころころと感情が変わるのは、彼女の所為だ。
ホグワーツに来るまでまともに人と接して来なかったのが嘘のように、彼女は人の感情に聡い。
勿論、鈍感なところも多いけれど。
彼女が、あのマク…何とかとかに話しかけられて困っているのならば、僕は当然助けるだろう。
彼女が望まなくとも。
ちらりと彼女を盗み見ると、何事もなかったかのようにでスプラウト先生の話に耳を傾けている。
スプラウト先生に指されてマンドレイクの特徴について答える彼女は、いつも通り無表情で、何を考えているのか分からない。

ドビーは、結局何がどう危険なのかを教えてくれなかった。
僕を見つけると消えてしまうし、話しかけると異常に驚くので父上と母上に気付かれてしまう可能性もあって、聞けずじまいだ。
今のところ、彼女は健康だ。
何か危険な目にあった様子はなさそうだ。
いくら狂った屋敷しもべ妖精の言ったことでも、彼女についてのことならば気になってしまう。

「さぁ、植え替えをやりますよ!四人組になって!」

ひょっとしたら、本当に彼女が危険な目に遭うかもしれない。
僕が、彼女をしっかり見ておかなくては。

「あ……」

しまった、考え込みすぎて彼女をレイブンクローの奴等に取られてしまった。
決して、彼女に見とれていたからではない。

「ラピス、」
「ドラコ!一緒に組みましょう」

彼女を呼ぶが、その声はパーキンソンの声にかき消されてしまった。

「痛っ!」

くそっ!マンド…何とかが噛み付くだなんて聞いてない。
パーキンソンが心配そうに僕の顔を覗き込む。

「ドラコ?ドラコ?」

レイブンクローの奴等の問いかけに答え、微笑む彼女の横顔を見ていると、スプラウト先生に教科書で頭を叩かれた。
ああもう、ついてない。

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