秘密の部屋 | ナノ

▼ 05(04)


「ラピス!」

漸く広間に着くと、名前を呼ばれた。
グリーングラスが、スリザリンのテーブル席からこちらに手を振っていた。

「じゃあまた。君と話せて良かった」
「…どうも」

アーニーがウインクするので、ラピスは適当な返事をしてスリザリンのテーブルに向かった。
ジャスティンとアーニーとのお喋り(殆どアーニーが喋っていただけだが)に疲れていたラピスは、初めて、早くスリザリンのテーブルに行きたいと思った。

「久しぶりね、ラピス」
「ごきげんよう」
「元気だった?ラピス」
「ええ」

投げかけられる言葉に返事をして、着席する。
グリーングラスが隣を空けておいてくれたようだ。

「ごきげんよう」
「あ、ああ」

ラピスの反対側の隣はドラコだった。
彼は、彼女のいつも通りの態度に安堵した。
買い物の時のことを何か追求されても、上手く答える自信がなかったからだ。
安堵したところで、いつも通り爽やかな笑みを彼女に向ける。

「宿題は終わったかい?」
「ええ」
「魔法史のレポート、後で見てもらっても良いかい?少し自信がなくて」
「私で良ければ」

淡々と答えるラピス。
やはり、ドラコの貼り付けたような笑みは好きではない。

「――あのハッフルパフの二人と知り合いなのかい?」

そして今度は、広間まで一緒に来ていたハッフルパフの二人が気になって仕方がないドラコ。

「いいえ、馬車で一緒だっただけよ」
「それにしては馴々しい奴等だ」

どうしてか、ドラコはラピスの人間関係についてやけに詳しく聞いてくる。
そして、気に入らないと貼り付けたような笑みを消して、嫌悪感を露わにする。(今まで気に入った人などいないけれど)
ラピスは、それについて不思議に思っていた。
演技ではないとすれば、彼の本心からだろう。
その本心が読めないから、彼が何を考えているのか分からないけれど。

「あんまり話しかけてくるものだから…」
「嫌なら無視すればいいじゃないか」

ドラコはそう言うが、ラピスには無視をすることは出来ない。
嫌われるのは構わないし、興味がないことは適当に流すけれど、流石に無視をすることはできない。

「聞いた?ポッターとウィーズリーが空飛ぶ車を墜落させたんですって」
「まぁ、なんて野蛮な……」

上級生の会話が聞こえ、ラピスははっとした。
やはり、二人は本当にあの車で飛んで来たのだ。
怪我はないだろうか、無事にホグワーツに到着しただろうか…。
グリフィンドールのテーブルを見ると、ハーマイオニーも既に聞いたらしく、非常に立腹のようだった。

「今度こそ退学ね」

ドラコの隣のパーキンソンが愉快そうに言った。

「心配してるのかい?」

ドラコがラピスに問う。

「ええ」

当たり前だ。

「奴等は悪いことをしたんだ。心配なんてする必要ない」

確かに、ドラコの言う通りだ。
それでも心配せずにはいられない。
ラピスは席を立った。

「何処に行くんだ?」

ドラコが彼女のローブの裾を掴む。
ハリーのところに行こうとすると、彼はよくローブの裾を掴むのだ。

「お手洗いよ」
「君はそんなはしたない真似はしない。ポッター達を探しに行くんだろう?」

ラピスは、食事前や食事中に手洗いに行くようなマナー違反はしない。
どうしてそこまで奴等を気にかけるんだ。
君がそこまでする必要なんてないのに。

「もう組み分けの儀式が始まる。それに、何処にいるかなんて分からないだろう?」

そうだ。
マクゴナガル教授に連れられて新入生が入場し、間もなく組み分けの儀式が始まる。
そちらに目をやると、ちらりと赤毛が見えた。
ハリーとロンが何処にいるのかも分からないのにも関わらず、探しに行くのは無謀すぎるのかもしれない。
ラピスが渋々着席するが、ドラコの手はローブの裾を握ったままだ。
指先でちょんと握っているだけなのだが、それなりに力が強い。

「行かないわよ」

ラピスがそう言っても、ドラコは離さない。
何か言いたげに口をもごもごさせている。

「……君は――ポッターに対して過保護になりす過ぎなんだ」
「え?」

初めて見た表情だった。
唇を少し尖らせ、子供のように拗ねているドラコ。
ラピスが目を見開いて彼を見つめていると、今度は頬をほんのりピンク色に染めた。

「…僕には厳しいのに」
「そんなこと……」

あるかもしれない。
普通に接しているつもりだが、ハリーを気にかけすぎているのかもしれない。
ドラコに対しては色々な意味で気にかけているつもりだけれど、鬱陶しくて適当に接していることが多い。
彼が、そんなことを気にしているとは思わなかった。

「そうね、気にかけ過ぎかもしれないわ」

ドラコは力強く頷く。
けれど、どうしても気にかけてしまう。
初めて出来た友達、ハリーが大切なのだ。

「貴方が大人しくしていれば、厳しくなんてしないのよ」
「大人しくって、僕は犬や猫じゃないんだぞ」

拗ねたように言うドラコに、ラピスが思わず微笑んで、彼はまたも頬を染めた。
彼がこうして表情を変えることが、何故か彼女の緊張を解いてしまう。
それは、彼も同じだった。
ドラコは未だ何かぶつぶつ言っていたが、ラピスは気にも留めず組み分けに目を向ける。
丁度、ジニーがグリフィンドールに組み分けされたところだった。

「聞いてるのか、ラピス」

ドラコが彼女のローブの袖をくいくいと引っ張る。

「貴方って思ったよりずっと人懐っこいのね」

尻尾が見えるようだ、とラピスは思った。
ドラコが恥ずかしさに頬を染めたことに気が付かず、彼女は組み分けを見つめていた。
一年前、あの帽子を被ったのがつい昨日のことのように思えた。
今年もまた、一年が始まる。


05 あまい指先(引き止める理由なんて、)

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