秘密の部屋 | ナノ

▼ 05(03)


結局、ジニーは汽車が到着する数分前にコンパートメントに帰って来て、慌ただしく着替えて出て行った。
何でも、もう友達が出来たんだとか。
彼女は社交的だ。

ハーマイオニーと汽車の外に出ると、ハグリッドが一年生を引率していた。

「私達は今年から馬車ね」

ハーマイオニーが言った。
馬車乗り場に並び、順番が来るのを待つ。
お世辞でも立派とは言えない四人乗りの馬車は、馬のような身体にドラゴンの様な翼をしている生き物が引いていた。
黒毛で、目は白く、骨ばっていて、不思議な生き物だ。
しかしそれは、ラピスの興味をそそった。
ホグワーツに来るまで都会暮らしだった為、生き物や植物に興味があるのだ。

「魔法の馬車なのに白馬が引っ張っているわけではないのね。まぁ白馬はちょっとこの馬車には似合わないけれど」
「そうね、あの生き物の方が合っていると思うわ」
「あの生き物?」

ハーマイオニーは、ラピスの言葉を聞いて眉を顰める。

「あの生き物って何?」

今度はラピスが驚いた。
"あの生き物"は、馬車を引っ張っている生き物のことだ。
たった今目の前を通り過ぎたのだから、ハーマイオニーにもしっかりと見えたはずだ。

「ハーマイオニー、見えないの?」

ラピスの問いに、彼女が返答しようと口を開いたところで、会話は中断された。
馬車に乗る番がきたからだ。

「あ……」

その声は、前に並んでいた三人組みのレイブンクローの女生徒のものだった。
前の女生徒が三人組と、ラピスとハーマイオニーで計五人になる。
馬車は四人乗りな為、一人余るのだ。

「私は次の馬車に乗るわ」

ラピスが言った。
後ろにはスリザリンのセオドール・ノットがいる。
彼は必要以上に口を開かず、誰かを非難中傷することもない。
群れることもなく、ラピスと似たような生徒だ。
しかし、スリザリン生ということだけで他寮の生徒は嫌悪感を抱くだろう。
聡いハーマイオニーは、ラピスが気を使ったことに気付き、お礼を言うとレイブンクローの女生徒と馬車に乗って行った。

次の馬車が来て、ラピスは不思議な生き物が引く馬車に乗り込んだ。
隣にノット、向かいにはハッフルパフの男子生徒が二人座った。
馬車が動き出し、ラピスは馬車を引く生き物に目を向けた。
何故ハーマイオニーには見えなかったのだろう。
一緒の馬車に乗っている彼等も見えていないのだろうか。
ハッフルパフの二人は見えていないようで、お喋りを続けている。
見える条件等があるのだろうか……

「僕にも見える」
「え…?」

突然、呟くようにノットが言った。
思わず聞き返すラピス。

「君にも見えるんだろう?」
「え、ええ」

ラピスは、彼と初めて言葉を交わした。
父親が死喰い人である彼だが、彼は何を考えているのか良く分からないし、どちらかと言えばスリザリンには向いていないような気さえする。
彼はラピスに危害を加える気はないようだ。

「ん、んんっ…ごほっ」

わざとらしい咳払いが聞こえて、顔を上げると、ハッフルパフ生の二人がこちらを見ていた。

「お会い出来て光栄です。君のことは勿論知ってます。名家の生き残りで、スリザリン生らしくないスリザリン生、ラピス・ミリアム」

髪がくるくるした男子生徒が、そう言ってラピスに手を差し出した。
"スリザリン生らしくないスリザリン生"という言葉は、もう慣れてしまった。

「ジャスティン・フィンチ=フレッチリーです。ジャスティンで良いです、よろしく」
「ええ……」

ラピスは差し出された彼の手を握った。
すると今度は、その隣の頑丈そうな身体つきの男子生徒が手を差し出した。

「アーニー・マクミランだ。アーニーって呼んでくれ」
「ええ」

彼が差し出した手をラピスが握ると、アーニーは頬を赤く染めた。

「君ってなんて美人なんだ」
「え?」
「こんな美人、僕は今までお目にかかったことないよ」

大袈裟に、身振り手振りで表現してアーニーは言うが、ラピスは困惑する。
ジャスティンとアーニーは、黙っているノットには興味がないようで、馬車が城に到着して、広間に入るまでラピスに話しかけていた。

prev / next

[ back ]