次の日、ラピスの元に手紙が届いた。
ハリーからだった。
≪話したい事があるんだ!でも、もしも手紙を誰かに見られたらすごくにまずい。だから、また直接話すよ。
君は勉強捗ってる?僕とロンはハーマイオニーの個別指導で気が狂いそうだよ。君も一緒に勉強出来たら随分ましになると思うんだけれど。ハーマイオニーがうるさいからまたね。 ハリー≫
"賢者の石"のことだろうか?
しかしクィレル教授はまだ粘っているようだ。
何かまた厄介なことに首を突っ込んでいなければ良いのだけれど。
ラピスはハリーからの手紙をローブのポケットにしまうと、ドラコが取ってくれたベーコンを口に運んだ。
そう言えば、彼、ドラコは最近大人しい。
彼も、何かまた悪巧みをしていなければ良いのだけれど。
――「ラピス、今日は魔法薬学の勉強にしましょうよ」
「…ええ」
勉強会は毎日行われた。
まさか毎日行われるとは思っていなかったが、毎日勉強しなければならない程宿題が出された。
ハリーと話しをしたくても時間が空かない。
やっとハリーを見付けたと思えば、ドラコや他のスリザリン生に話しかけられる。
誰かに聞かれてはそんなにも拙い内容だったらしく、ハリーはラピスと二人きりで話しがしたいようだった。
「あら、ロンは?」
魔法薬学の授業でロンがいないことに気が付いたラピス。
ハリーの隣の席にはハーマイオニーがいた。
スネイプ教授が他の生徒の鍋を見ている隙に、ラピスは二人の机に静かに寄った。
「それがね、ラピス…」
「ラピス、ハナハッカはいつ入れれば良いんだい?」
ハーマイオニーがラピスに耳打ちしようとすると、ドラコがラピスに声をかけた。
「教科書に書いてあるわ」
「そうれはそうだけれど、君の指示で入れた方がより確実だろう?」
ラピスとハリー達が接触するのを邪魔するかのように間に入ってくるドラコ。
ハーマイオニーは黙ってしまった。
「――おや、今日はウィーズリーはいないのかい?そうか、とうとう学費が払えなくなって退学したんだな」
「違うわ!」
「ドラコ、」
薄笑を浮かべて嫌味を言うドラコ。
ハーマイオニーがすかさず反論し、ラピスは彼を窘める。
「ロンは、その……噛まれたのよ。犬に」
「君には関係ないことだ、マルフォイ」
「犬に?そんなに酷いの?」
授業に出ることが出来ない程酷く噛まれたのだろうか。
それとも何か菌に感染した?
「いや、大丈夫だよ。直ぐに良くなるよ」
「そう、それなら良いのだけれど……」
「犬に、ね――」
ドラコが意味有りげに、嫌な笑みを浮かべて言った。
「そうよ、"犬"よ」
ハーマイオニーが強い口調でもう一度言った。
「何をしている」
スネイプ教授が此方に向かって歩いてくる。
「ポッターとグレンジャーが手順を間違えて作業をしていたので教えてあげたんですよ、先生」
「なっ!」
「違う!」
「こんな簡単な調合も出来んのか。授業に集中していない証拠だ。グリフィンドール一点減点。スリザリンには一点与える」
「そんな……」
「ありがとうございます、スネイプ先生」
ドラコといると碌なことがない。
よくもあんな嘘が吐けたものだ。
ハリーとハーマイオニーの反論にスネイプ教授が耳を貸すわけもなく、二人は更に減点された。
「ごめんなさい」
「ラピスが謝ることないわ」
「また、話しを聞かせてちょうだいね」
ドラコがふん、と鼻で笑って、自身の席に戻って行く。
ラピスは直ぐ後を追いかける。
「貴方、よくもあんな嘘が吐けたものね」
「まさか減点されるなんて思わなかったんだ」
ドラコは大鍋をかき混ぜながらわざとらしく眉を下げた。
分かっていたに決まっている。
「ハナハッカ、入っているじゃない」
大鍋の中の薬は、ハナハッカを入れた後変化する色になっている。
「ああ、確認しようと思って君を呼んだんだ」
「――貴方、何か企んでいるんじゃないでしょうね?」
「企む?そんなこと考えてないよ。君ったらひどいな」
彼がにこやかに言う。
「それなら良いけれど……」
何か企んでいるに違いない。
次の日も、その次の日も、ラピスは談話室に缶詰だった。
いつの間にか男子までもを巻き込んだ大がかりな勉強会は、彼女にとって非常に嫌なものだった。
勿論ドラコも参加していたのだが、彼は時折姿を消す。
戻って来たと思えば、何事もなかったかのように勉強をしている。
試験が一週間後に迫ったが、未だハリー達とは話せずにいた。
ロンは未だ医務室に入院している。
ラピスはロンの見舞に行ったが、彼の様子はどこかおかしかった。
「犬に噛まれたんですって?」
「え?あ、あー……う、うん」
少し目を見開いた後、どもりながら彼は頷いた。
「どうかして?」
「ううん、そう、犬、犬に噛まれたんだ」
マダム・ポンフリーの顔をちらちら見ながらぼそぼそ言う彼は、やはりおかしい。
もしかして…何か別の生き物に噛まれたのだろうか――。
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