「ねぇ、テストに向けて勉強会を開きましょうよ」
グリーングラスが言った。
「良いわね、それ」
「きっと捗るわ」
他の女生徒も口々に賛同する。
「勿論、ラピスも参加してくれるわよね?」
にっこり、グリーングラスが彼女に問いかける。
「私?」
天文学の課題をやっていたラピスは驚いて顔を上げる。
スリザリンというのは、他寮から孤立している。
忌み嫌われていて、なるべく関わらないようにしようと避けられている。
しかしその分、他寮と比べて寮の結束が高い傾向にある。
勿論、その中でも揉め事はある。
純血主義のスリザリン。
家柄の良い生徒が多くいるのだ。
スリザリンという小さな社会の中で、自身の家名をどれだけ高めることが出来るか。
自身よりも名家の者の機嫌を取り、取り入って、少しでも自身の家名の地位を上げようとする。
そうして生徒達はもがく。
此処で得た地位は将来に続く。
だから、とても大切なのだ。
女と男では少し異なるだろう。
家柄、地位、品格、美貌、教養、魔力、話術。
それが少女達にとって大切な事だった。
それらを満たす者が、この小さな社会を支配することが出来るのだ。
ラピスは、話術以外の全ての項目を満たしていた。
苦手な話術を補うだけの能力もある。
その気になれば、上手く話すことも出来ただろう。
彼女が一言言えば、少女達は従順になるだろう。(今も殆どそうなのだが)
しかし、彼女はそんな地位を望まなかった。
縛られるのは嫌だ、自由でいたい。
第一、そんなことを私がするべきではない。
スリザリン一年生の女子の中心はパンジー・パーキンソンだった。
気が強く、狡猾で、意地が悪く、敵と見なした者を容赦なく貶す。
生粋のスリザリン生だ。
他の女生徒はラピスの顔色も窺ったが、彼女の顔色も気にしていた。
――「どうして私も?」
率直な質問だった。
「だって貴女、とても優秀ですもの」
「貴女のおかげで授業が分かるようになったのよ」
「貴女がいてくれなくちゃ意味がないわ」
彼女達は口々に美辞を口にする。
接していても、特に何も思うことはない。
彼女達はハーマイオニーとは違う。
それだけだ。
「パンジーもそう思うでしょう?」
ブルストロードが、隅で羽ペンを動かしていた彼女に聞いた。
「……そうね、貴女がいてくれた方が良いと思うわ」
小さな声で彼女が言った。
その言葉に驚くラピス。
まさか彼女が、自分を求めるような言葉を言うとは思ってもいなかったのだ。
しかし、彼女の顔には"不本意で言ったよ"と書いてあった。
他の女生徒達に言わされた?
否、他の女生徒達よりも彼女の方が立場が上だ。
では何故……?
彼女の敵対心剥き出しの態度は、決して嫌ではなかった。
寧ろ、他の女生徒達のように褒めちぎって取り入ろうとするよりもよっぽど良い。
自身に嫌悪や敵意を隠さず接してくれるのは、ラピスにとってありがたいことだった。
「ほらね?だから一緒に勉強しましょうよ。勿論、いつも貴女に助けられているの分かっているわ。貴女がいつも勉強を見てくれていること、とても感謝しているもの。ね?」
グリーングラスの言葉に、他の女生徒達が首を縦に振った。
「ラピスと同じ寮で本当に良かったわ。だって私、貴女がいなかったら先生方に叱られてばかりいたもの」
「貴女と同じ寮で誇りに思うわ」
「いつも、もっと貴女が一緒にいてくれたら、って思うのよ。もっと私達と仲良くしてくださいな」
耳を塞ぎたくなるような、頭が痛くなるようなの美辞の数々に、ラピスはとうとう折れた。
テストまでだ。
それでクリスマスプレゼントの返礼は終わりで良い。
「――分かったわ」
「まぁ!」
少女達が顔を綻ばせる。
「でも、テストまでにしてちょうだい」
この中にずっといるだなんてことは無理だ。
疲れるだろうし、付き合っていられない。
図書館にも行ったり、自分の勉強もしなければならない。
「ありがとう、約束よ」
少女達の笑みは、とてもスリザリン生らしかった。
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