賢者の石 | ナノ

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「本当に素晴らしかったわ」
「ありがとう」

彼は、箒に関して誰よりも才能がある。
そして、広範囲を見渡す目、臨機応変の判断力、全てを行動に移す行動力。
彼は、ハリーはやはり素晴らしい。

「僕、やったんだ」
「ええ」
「スネイプに目にもの見せてやったんだ」
「ええ」

ラピスは少し笑った。
箒置き場にやってきた二人は、試合の余韻に浸っていた。
試合が終わってからハリーは一時間も祭り上げられ片付けに行く暇がなかったのだそうだ。
ラピスは、そんな彼を更衣室の入り口でずっと待っていた。

「ダンブルドアが褒めてくれた。鏡のことを吹っ切ることが出来たから」
「ええ」
「君のおかげだよ。鏡のことも、試合のことも」

夕日の所為か、彼の頬が少し赤い気がした。

「違うわ。ハリー、全部貴方自身がやったことよ」
「君っていつも謙遜してばかりだ」
「それは貴方の方よ」

彼がくすっと笑うと、ラピスも釣られて微笑む。
木の扉に寄りかかりホグワーツを見上げると、窓という窓が夕日に照らされ赤くきらきら輝いている。
ハリーは、今まで生きてきた中で、こんなに気持ちの良い日はなかった。

「あれ……?」
「?」

ハリーの声に、ラピスは彼の視線を追う。
城の正面の階段を、フードを被った人物が急ぎ足で降りてきた。
明らかに人目を避けている。
禁じられた森に足早に歩いていく。
試合の勝利熱があっという間に吹っ飛んでしまった。

「スネイプだ」

あの歩き方は間違いない。
他の人達が夕食を食べている時にこっそり森に行くなんて一体何事だろう?

「行こう、ラピス」
「え?」
「追いかけるんだよ」
「禁じられた森よ?」
「大丈夫。さぁ、乗って」

二人は二ンバス二○○○に跨り、人影を追った。

木の下の薄暗い平地にスネイプ教授がいた。
一人ではなかった。
クィレル教授もいた。
どんな顔をしているのかよく見えなかったが、クィレル教授はいつもより酷くどもっていた。

「……な、なんで……よりによって、こ、こんな場所で……セブルス、君にあ、会わなくちゃいけないんだ」
「このことは二人だけの問題にしようと思いましてね」

スネイプ教授の声は氷のようだった。

「生徒諸君に"賢者の石"のことを知られてはまずいのでね」

ラピスはその単語を聞いてはっとした。
クィレル教授は何かモゴモゴ言っていたが、スネイプ教授がそれを遮った。

「あのハグリッドの野獣をどう出し抜くか、もう分かったのかね?」
「で、でもセブルス…私は……」
「クィレル、我輩を敵に回したくなかったら」

スネイプ教授はぐい、と一歩前に出た。

「ど、どういうことなのか、私には……」
「我輩が何が言いたいか、よく分かっているはずだ」

ふくろうが大きな声でほーっと鳴いたので、ハリーが木から落ちそうになった。
慌ててラピスが支え、やっとバランスを取り、スネイプ教授の次の言葉を聞き取った。

「……貴方の怪しげなまやかしについて聞かせて頂きましょうか」
「で、でも私は、な、何も……」
「良いでしょう」

スネイプ教授が遮った。

「それでは、近々、またお話をすることになりますな。もう一度よく考えて、どちらに忠誠を尽くすのか決めておいて頂きましょう」

スネイプ教授はマントを頭からすっぽり被り、大股に立ち去った。

「そんな……」

ラピスが呟く。
あれはどう見ても――。

その場に石のように立ち尽すクィレル教授。
ハリーの合図で戻ろうとした時、一瞬、クィレル教授が此方を見た気がした。
途端、ぞくりと背中に寒気が走った。
あの時と、前回の試合の後、ハリー達と話し合いをしていた時と同じ――。

「ラピス?」
「あ、いいえ……」

もう一度クィレル教授の方を見たが、彼はもう其処にはいなかった。

「行こう、ロンとハーマイオニーに知らせなくちゃ」

再びハリーの箒に二人で跨った。
ラピスの頭は混乱していた。

「やっぱりそうだったんだ。スネイプは"賢者の石"を狙ってる」
「貴方の言った通りだったわ」

ラピスが頷く。
認めたくなかった。
しかし、先程の光景を目の当たりにして、認めざるを得ない。
でも、何故?
スネイプ教授は何故石を狙っているの?
だって彼はアルバスの――…
しかし、彼を擁護する言葉が見付からない。
ラピスはハリーのユニフォームをきゅっと握った。


27 渦巻く疑念(何が、誰が、どれが真実?)

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