「ハリー」
着替えを済ませ、外の空気を吸おうと更衣室から出たところだった。
名前を呼ばれて振り返る。
「――ラピス」
彼女の姿を見て、ハリーの強張った表情が、少し緩んだ。
試合が始まる前、ラピスは行き先を聞いてくるドラコやグリーングラス達を撒いて、急いでグリフィンドール・チームの更衣室にやって来た。
「応援しているわ」
「うん」
ハリーは拳をきゅっと握る。
「でも、きっとスリザリンの観客席でグリフィンドールを応援しているのなんて君だけだよ」
「そうかもしれない。でも、一人だったとしても、私はグリフィンドールを応援するわ」
「君はそういう子だもんね」
ハリーがくすりと笑う。
「心配しないで、貴方を絶対に傷付けさせはしない」
ラピスはハリーの手をきゅっと握った。
「あ、ありがとう」
彼の頬が、嬉しさと恥ずかしさで染まる。
「頑張って、ハリー」
彼女の応援は、彼に勇気を与えた。
――「ラピスったら何処に行ってたの?」
「お手洗いよ」
ラピスはスリザリンの観客席に腰を下ろした。
グリーングラスとブルストロードが開けておいてくれたらしい。
勿論、スリザリン生はハッフルパフを応援する為に観戦しに来ている。
「ねぇ、ドラコは何処?」
パーキンソンがブルストロードの横から顔を出した。
彼女は、想い人であるドラコの傍にいるラピスが気に食わないのだ。(勿論ラピスがくっついているわけではない)
彼女は他の生徒とは違い、ラピスに媚を売るようなことをしなかった。
ラピスが名家の末裔ということで、パーキンソンは危害を加えることをしなかったが、口調はいつも強い。
「知らないわ」
そう言われて見れば、ドラコと腰巾着二人の姿がない。
グリフィンドールの試合を見る為に此処まで足を運ぶのが嫌になったのだろうか。
否、彼ならばスネイプ教授に理不尽なペナルティを与えられたグリフィンドール・チームを嘲笑いに来るに違いない。
パーキンソンはきょろきょろとドラコの姿を探すが、ラピスの頭はハリーの事で一杯だった。
ラピスの心配を知っていたように、アルバスは試合を観戦するために観客席に座ってにっこりしていた。
選手達がグラウンドに入場する。
ハリーの表情が先程よりもリラックスしたように見えて、ラピスは少し安心した。
フレッドとジョージが観客席に手を振り、ラピスも小さく振り返した。
「……!」
ふとハッフルパフ・チームの選手達を見て、ラピスは吃驚した。
双眼鏡を覗き、もう一度見てみる。
――間違いない。
整列したカナリアイエローと黒のユニフォームを着た選手の中に、先日図書館で一緒に勉強をした彼が――セドリックがいるのだ。
これで彼の言動の理由が理解出来た。
彼は、ハッフルパフのクィディッチ・チームの選手だったのだ。
「始まるわね」
グリーングラスが言った。
ラピスはペンダントをきゅっと握った。
――「嘘……」
パーキンソンが呟く。
嘘ではない。
ハリーは、試合が始まって僅か数分でスニッチを掴んだ。
グリフィンドールが勝ったのだ。
ハリーは突然ものすごい急降下を始め、スネイプ教授の方に猛スピードで突進し、すぐ傍をほんの数センチの間でびゅんと通り過ぎたかと思うと、次の瞬間、意気揚々と挙げられた手にはスニッチが握られていた。
「こんなに早くスニッチを捕まえるなんて前代未聞だわ」
ブルストロードが驚きの声を上げる。
驚いて当然だろう。
「ぐ、偶然に決まってるじゃない」
パーキンソンは憎たらしく言った。
アルバスとハリーが話してる横でスネイプ教授が苦々しげに地面に唾を吐いた。
ラピスは立ち上がり、早足で観客席を降りた。
prev / next
[ back ]