賢者の石 | ナノ

▼ 26(2)


「ラピス?」
「ラピスじゃないか!」

校長室から寮へ帰る途中、聞き覚えのある声が聞こえて振り返る。

「いつ戻って来たんだ?」
「君は帰宅組じゃなかったか?」

フレッドとジョージだった。
同じ色のセーターを着て、同じ帽子を被って、同じ手袋をして、満面の笑みでラピスに駆け寄る。

「ごきげんよう。一度家に帰宅したのだけれど、事情があって昨日戻って来たの」
「そうか、早めに会えて嬉しいよ!」
「ええ。あ――」

二人を目の前にして、気付いた。
このセーターは、双子の母親が編んだものだ。
"F"と"J"の文字が大きく刺繍してある。

「ああ、これかい?」
「ウィーズリー家特製セーターさ!」
「僕がフォージで」
「僕がグレッドさ」

双子が悪戯っぽく笑いながらイニシャルを指さす。

「それはセーターを交換したら、でしょう」

彼女の言葉に、双子は顔を見合わせる。

「まさかラピス、」
「僕達の区別が付くのかい?」
「自己紹介してもらったもの」

ラピスは当然のように言った。

「やっぱり君は最高だよ!」
「流石僕等のラピス!」

平然と言うラピスに、双子は彼女に抱き付いた。

「っ!苦しいわ」
「両親でさえ間違えるのに!」
「やっぱり君はただ者じゃない!」

ラピスはもがくが、双子は離そうとしない。
双子の言う通り、二人は本当に似ている。
しかし、良く見れば少しずつ違うのだ。
彼女はその違いをきちんと見分けていた。

「フレッド、ジョージ」

ラピスが呆れたように名前を呼ぶと、双子は漸く離れた。
双子の様子からすると、ラピスがウィーズリー夫人にセーターを貰ったことは知らないようだ。
知らないのならば、わざわざ言う必要もないだろう。
彼女は、セーターを貰ったことに対して罪悪感なのか劣等感なのか、複雑な思いを感じていた。
恐らく、毎年手作りのセーターを子供達に贈っているのだろう。
彼等の母親であるウィーズリー夫人は、素晴らしい人物に違いない。
それなのに、私のような者がそれを貰って良いのだろうか。

「とても、素敵なお母様なのね」

ラピスは目を細めた。
少し、胸が痛むのは気の所為だろうか。

「まぁね、ちょっと口煩いけど」
「いや、結構だぜ」
「でも、僕等の自慢のお袋さ」

少し照れながら言う双子に、ラピスは微笑んだ。

「そう言えば、ハリーも貰ってたな!」
「え?」

ハリーも?

「ラピス、雪合戦やろうぜ!」
「冬休みの醍醐味だ!」

彼女は考え込んだままだが、双子は話しを進めていく。
ハリーも貰ったということは、私も同じなのだろうか。
ロンの友達だから、と言うことで良いのだろうか。
ではあの手紙は――?

「聞いてる?ラピス」
「あ、ごめんなさい」
「雪合戦だよ、良いかい?」
「雪合戦…?」

彼女は雪合戦をしたことがなかった。
そういった遊びがあることは知っているが、実際にやったことはない。

「まさか、やったことないの?」
「…ええ」

双子は少し驚いたが、直ぐに雪合戦について説明してくれた。
初めての遊びに一抹の不安を感じたラピスだったが、雪合戦が始まればそんなことも忘れて没頭していた。

「上手いじゃないかラピス!」
「まさかこんなにコントロールが良いとはね、おっと!」
「君なら立派なチェイサーになれるよ!ぅわっ!」

ラピスのコントロールの良さに驚く双子。
彼女の息は自然と上がり、夢中になっていた。
その顔には、ほんの僅かだが笑みも浮かんでいる。
彼女の様子を見て、双子は顔を見合せて微笑んだ。

――次の日から、ハリーは鏡のところへ通わなくなったそうだ。
きっと、アルバスが何か言ってくれたのだ。
残りの冬休み、ラピスはハリーとロンとお喋りしたり、宿題を教えたり(二人は殆ど手をつけていなかった)、双子から悪戯計画を聞いたり(二人の良く働く悪知恵に驚いた)、他の時間は図書館に通ったりして過ごした。
初めての冬休みは、家で過ごすよりも学校で過ごすことの方が多かった。
来年こそ、新年をルーシーと家で迎えよう。
しかし、学校で過ごした冬休みは決して不快ではなかった。
それは、彼等がいてくれたからこそ。

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