ラピスの忠告も虚しく、その後もハリーは鏡のところへ通っているようだった。
ロンも不安がっていて、ラピスもハリーが心配になった。
――「分かっておるよ」
アルバスは微笑んだ。
「勿論、君が鏡を見たことも」
そう言って、少しだけ眉を下げた。
「貴方は何でも知っているのね」
「何でもは知らんよ」
ラピスは、毎晩のように鏡のところへ通うハリーが心配になって、アルバスのところへ相談に来たのだった。
「よく――自ら鏡を見ることをやめたのぅ、ラピス」
アルバスは彼女の髪を撫でて言った。
「きっと、駄目になると思ったのよ……」
「その通りじゃ。鏡には…ご両親が映ったんだね?」
「ええ。それから、ルーシーも」
彼は頷いた。
「君の一番奥底にある、一番強い"のぞみ"じゃ」
そうだ。
あれは、私の"のぞみ"。
「君はきっと、自ら鏡を見なくなると思っていた」
「どうして?」
「君がとても優しい子だからじゃよ」
そう言って彼女の頭を撫でる彼の手は、とても優しかった。
「優しくなんか……」
彼は、彼女の唇にそっと人差し指で触れて言葉を制した。
「だから、とても心配なのじゃよ」
「心配しなくても、そんなに弱くなんかないわ」
「君のそういうところは、お母上にそっくりじゃ」
彼が悪戯っぽく微笑む。
「アルバスも……あの鏡を見たことがある?」
「あるとも」
彼の心の奥底の願いとは何だろうか。
幼い頃から彼を知っているが、彼の過去を殆ど知らない。
どんな子供だったのか、どんな学生時代を送ったのか、恋人のことや家族のこと。
知らないことだらけだ。
しかし、聞こうとする度に彼ははぐらかしてしまうのだ。
「大丈夫じゃ。ハリーのことはわしに任せなさい。君は残りの休暇を楽しむのじゃ」
「……ありがとう」
彼は聞かれたくないのだろう。
又は話せないことなのだろうか……。
いつか、教えてくれる日がくるだろうか――。
校長室を出ていくラピスを見送る彼は、複雑な表情だった。
やはり、私の選択は間違ってはいなかった。
あのまま鏡を見続けていれば、アルバスに心配をかけていた。
彼は、私が自ら鏡を避けることを分かっていた。
私は、その期待に、望みに応えなければいけない。
あの鏡は本当に魅力的だった。
夢を見ているようで、とても幸せな気持ちになった。
それと同時にとても悲しい気持ちになった。
胸が、痛かった。
ハリーが、鏡から早く離れられますように。
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