賢者の石 | ナノ

▼ 25


次の日の夕方、ラピスが本を読んでところに、新聞を取りに行ったルーシーが、息を切らして漏れ鍋から帰って来た。

「お嬢様、これが漏れ鍋に届いておりました!」

ルーシーが持ってきたのは、羊皮紙の端切れを簡単に折っただけの手紙だった。

《君に見せたいものがあるんだ!早目に戻って来て!》

ハリーからだった。
興奮していたのか、またも走り書きのようだ。
見せたいもの?
何だろう?
ホグワーツ行きの列車は一日一本しかない。
今日はもう出てしまって、もう直ホグワーツに着く頃だろう。

「お嬢様、ホグワーツに戻られますか?」
「でも……」

せっかくの冬休み。
ルーシーと久々に過ごせる時間。
それを減らしたくはない。
しかし、ハリーも大切だ。
何か困ったことだったとしたら?
私を必要としているのだとしたら?

「お嬢様、お友達が呼んでいらっしゃるのでしょう?」
「ええ、でも――」
「ルーシーのことはご心配に及びません。十分、お嬢様との時間を過ごさせていただきましたから」

心配そうなラピスに、ルーシーがにっこり笑う。

「ルーシーだけがお嬢様の冬休みを独り占めしては申し訳ありません。さぁお嬢様、荷物をまとめて」

ルーシーに背中を押され、ラピスは早目にホグワーツに戻ることを決意した。
友達が呼んでいる。
ルーシーと家で過ごす時間が減ってしまうのにも関わらず、呼ばれたことが嬉しかった。

――夕食を済ませ、ラピスはルーシーの【姿あらわし】でホグワーツに戻って来た。

「ありがとう、ルーシー」
「お嬢様のお帰りをお待ちしております」
「……また、会えないのね」

そう言ってルーシーの目線に合わせてしゃがむラピスの表情は悲しげだ。
それを見たルーシーは笑って彼女の手を握った。

「手紙を、書いてください」
「ええ、勿論」
「無理をしないでくだいさい」
「ええ」
「甘いものばかり食べてはいけません」

その言葉に、互いにくすりと笑う。

「どうか、お元気で」
「貴女もね、ルーシー」

しっかりと抱き合い、ルーシーはラピスの荷物を魔法で運ぶと、【姿くらまし】で消えた。

――ラピスはまず大広間を覗いてみたが、生徒は疎らでハリーはいなかった。

「ラピス!」

グリフィンドール寮へ向かう階段を登っている時、頭上から名前を呼ばれた。
ハリーだ。

「来てくれたんだね!ごめん、急に呼び出すようなことして」

ハリーがラピスに駆け寄る。

「いいえ、大丈夫」
「そうだ。ラピス、誕生日おめでとう」

はにかみながら言う彼。
ラピスは一瞬、言葉を喉に詰まらせた。
とても嬉しかったのだ。
初めて、友達に祝われたことも、その言葉も。

「――あ、りがとう」

ハリーはにっこり笑った。

「クリスマスプレゼントありがとう。冬の練習は寒くてきつかったから、本当に助かるよ」

ラピスはハリーに、特別な布で作ってあるアンダーシャツを贈った。
薄い生地だが、一枚でとても温かいのだ。

「良かった。私こそ、どうもありがとう」

そう言ってローブの袖を捲ってハリーからのブレスレットを見せる。

「あ、それ――」

彼の顔が薄っすら赤く染まる。

「とても嬉しかったわ。ありがとう、ハリー」

ラピスが微笑むと、彼は顔を赤くしながら笑った。

「あのね、僕、すごいもの見付けたんだ」
「すごいもの?」
「そう。ロンは僕と違ったけど、君なら、君なら多分――僕と、同じだと思うんだ」
「え?」

ハリーは何のことを言っているのだろうか。
ロンと違う?
ハリーと私は一緒?
一体何が……?

「ねぇハリー、すごいものって何?」
「それはまた後で!じゃあ消灯時間が過ぎたら迎えに行くから寮の外で待ってて!」
「消灯時間を過ぎてから?」
「大丈夫、心配いらないよ!じゃあまた後でね!」
「あっ、ハリー……」

彼は手短に言って、(それも重要な事は言わずに)行ってしまった。
消灯後に寮を出るのは規則違反だ。
規則を破ったことはないが、特に厳守しようと思っているわけでもない。
しかし、寮の点数を減らすわけにはいけない。
彼は大丈夫だと言った。
何か秘策があるのだろうか?
好奇心旺盛なのはとても良いことだが、時折彼が心配になる。
彼は、私と自分は一緒だ、と言った。
あの時彼が一瞬だけ、少し悲しそうな、寂しそうな目をしたのを見た。
何故――?

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