賢者の石 | ナノ

▼ 24(2)


ラピスは次の包みに手を伸ばしかけ、一瞬手を止めた。
それは、毎年贈られてくる差出人不明のプレゼントだ。
毎年の三つの中の一つ。
呪いがかけられているわけでもない、何か仕掛けがあるわけでもない。
第一、今此処にあるプレゼントは全て漏れ鍋宛てになっていて、ルーシーが漏れ鍋まで取りに行ってくれたのである。
ラピスは事前に送り主に漏れ鍋宛てにするよう頼んである。(双子やウィーズリー夫人の場合はロンに聞いたのだろう)
しかし、このプレゼントは毎年ツリーの下に置いてある。
取りに行ったわけではない。
つまり、この家の場所を知っている人物なのだ。
この家を知っているのはアルバスとルーシーの他に、恐らくホグワーツの教員数名だろう。
その他に、まだ知っている人物がいるのだ。
そして、アルバスか私に許されている人物。(許可されなければ物や動物も侵入することは出来ない)
この差出人不明のプレゼントは、両親を亡くした翌年の誕生日から送られてきている。
両親が殺された事を知っているのだろう。
家も、両親も知っている。
一体誰が――?
いつものように、ルーシーもアルバスも微笑むだけで、教えてはくれない。

小箱のを開けて、ラピスは思わずそれに見入ってしまった。
中身は、蝶々の飾りが付いたヘアピンだった。
青色と紫色の石が散りばめられた銀色の蝶々は、時折羽を閉じたり開いたりして、まるで生きているかのように動く。
その度に石がきらきらと光り、とても綺麗だ。
横にさり気なく咲いている小さな花が、更に蝶々を引き立てている。
シンプルだがとても繊細で、綺麗なものだった。
しかし、それは新品ではなかった。
綺麗に磨かれてはいるが、よく見ると小さな傷があり、修復した跡も見られる。
今まで、贈られるものは新品だった。
高価ではないけれど、全て新品だった。
これは、誰が使っていたものなのだろうか。
何故これを私に……?

《これからも美しく成長し続ける君へ》

分からない。
一体誰なのだろうか。
名前も書かず、毎年のようにプレゼントを送ってくる人。

「……っ!」

もう一度カードに視線を落として、ラピスは目を見開いた。

《追伸、君はご両親にとても似ている》

このプレゼントの贈り主は、両親のことだけではなく、私のことも知っている。
今の、私の容姿を知っているのだ。
益々分からなくなる。
考え込んでいるラピスは、後ろにいるルーシーが涙を拭っていることに気が付かなかった。

――「おはよう、ラピス」

大きな音と共にアルバスが現れた。

「ごきげんよう、アルバス。プレゼントをどうもありがとう」
「気に入ってくれたかの?」
「ええ、勿論」

しっかりと抱き締めて、感謝の気持ちを伝える。

「君からのプレゼントもとても素敵じゃった」
「良かったわ」
「わしの好みをよく分っておる」

アルバスがにっこり笑う。
ラピスは彼に紅茶葉の詰め合わせを贈った。

「勿論よ」

ラピスが少し身体を離して微笑むと、彼は愛おしむように額にキスを落とした。

それから間もなくして、ラピスの一日遅れの誕生日会が始まった。
ルーシーとプレゼントを交換し、ルーシーが大喜びするのを見てラピスとアルバスが微笑む。(ルーシーはハリーからもプレゼントを貰った)
ルーシーの幸せそうな姿を見ると、とても落ち着く。
彼女が笑ってくれていることが嬉しい。
自然とラピスの頬は緩む。
それでも、その群青色の瞳の奥は悲しげだった。

「他にも――沢山プレゼントを貰ったようじゃの」

アルバスがツリーの下のプレゼントを見て微笑む。

「私、こんなに沢山貰ったことがないわ」

プレゼントを見回してラピスが言う。

「こんなに、沢山――」

両親と最後に過ごした誕生日とクリスマスは、悲しくて残酷な、恐ろしい日だった。
両親が殺されてからも、ずっと地下室に籠り、ひたすら異状に耐えてきた。
誕生日もクリスマスも好きではない。
胸にぽっかりと空いてしまった大きな穴はずっと空洞で、何も感じることはない。
これで良い、このままで良い。
そう思っていた。
でも――、今年は、今日は違う。
この先も、誕生日とクリスマスを好きになることはないけれど。
十二歳の誕生日は、今までとは違う感情で満たされていた。

「――ありがとう」


24 煌きに霞んだ憂い(貰ったのはプレゼントだけじゃなくて、)

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