賢者の石 | ナノ

▼ 24


「ん……、」

ラピスは意識がはっきりすると、時間を確かめた。
――朝だ。
一度も起きることなく眠ったことに驚く。
毎年、この日は必ずあの夢を見る。
両親が殺された時の記憶。
ホグワーツでも数度見ていて、いつも夢が終わる時、つまり夢の中の自分が叫ぶと同時に目が覚める。
何故見なかったのだろうか。
初めてのことに戸惑ったが、夢を見たいわけではない。
あんな辛い記憶、忘れてしまいたいのだから。
しかし夢の中の両親は、数時間でも生きている。
夢の中では両親に会えるのだ。
否、馬鹿なことを考えてはいけない。
両親は死んだのだ。
もう、この世にはいない。

着替えと洗面を済ませてキッチンへ行くと、ルーシーが慌ただしく動いている。

「おはようございます、お嬢様」

エプロンを着けたルーシーがラピスに駆け寄る。

「ごきげんよう、ルーシー」
「ゆっくりおやすみになれましたか?」
「ええ、ありがとう」

その言葉に、ルーシーはにっこり笑う。

「今朝食の準備を致します」

ルーシーがキッチンへ走って行った後、ラピスはふと視線を止めた。
それは、小さなクリスマスツリーだ。
二十五日を祝えないラピスの為に、ルーシーは二十六日まで飾っておくのだ。
しかしラピスの視線が止まったのはツリーではなく、その下だ。
綺麗な包みの箱が山積みになって置いてあるのだ。

「お嬢様、」

その声に振り返ると、ルーシーが微笑んでいた。

「全て、お嬢様宛てのプレゼントでございます」
「これ、全て……?」
「そうでございます」

ラピスは目を丸くする。
こんなに沢山のプレゼントは見たことがない。
いつも置いてあるのは二つ。
ルーシーには手渡しで貰うので、一つはアルバスからのプレゼントだ。
そしてもう一つは――……
プレゼントは毎年三つで、減る事はあったとしても、これから先もずっと増えることはないと思っていた。
それなのに――。

――ロンからのプレゼントは、クィディッチ今昔の最新版だった。
ラピスがクィディッチに興味を持った事を知ったからだろう。(勿論、ハリーが選手だからだ)
彼は言っていた通り、プレゼントを二つ贈ってくれた。
もう一つはカエルチョコレートのぎっしりつまった箱だった。

ハーマイオニーからは、甘いお菓子の詰め合わせ(虫歯になりにくいと書いてある)と彼女お勧めのマグルの辞書。

「あ――」

次の小箱を開けて小さく声を漏らすラピス。
中身は、彼女がハリーの誕生日プレゼントに贈ったブレスレットと似たものだった。
石は、彼女の瞳と同じラピスラズリ。
彼女が送ったものは手作りな為、石の大小等多少の違いはあれど、揃いと思って良いだろう。

《お揃いなんだけど…気を悪くしたらごめん。》

彼らしいメッセージだ。
そんなわけないのに。
早速手首に通してみると、それは星のようにきらきらと光った。

ハグリットからはお手製のロックケーキだった。
いくらラピスでも、一日では食べきれない程大きい。

アルバスからは、ピンクや水色、他にも色とりどりの毛糸のソックスだった。
一つ一つ選んでくれたに違いない。
触ってみると、ふわふわと温かかった。

次はフレッドとジョージからだった。
まさか二人から届くとは思わず、ラピスは驚く。
中身は、百味ビーンズや気分で色が変わるキャンディーなど、お菓子の詰め合わせだった。
悪戯グッズかと思ったラピスは、二人がそれなりに気を使ってくれたのだろう、と思った。

次の包みを開けて、ラピスは目を見開いた。
厚い手編みのセーターは群青色で、胸のところにイニシャルが刺繍してある。
一緒に入っていたカードを見ると、セーターはロンと双子の母親からのようだった。

《可愛いラピスへ
いつも貴女を想っているわ。
モリー・ウィーズリー》

まるで、知り合いのような内容だ。
それも、昔から知っているかのような。
しかしラピスは、ウィーズリー夫人に会ったことがない。
セーターの色はラピスの瞳の色を分かってのことだろうか。
ロンか双子が話したとしても、このカードの内容はおかしい。

「ねぇ、ルーシー、私、ウィーズリー夫人にお会いしたことがあったかしら」
「…どうでしたでしょうか」

煮え切らない返答に、ラピスの眉がぴくりと動く。
アルバスに口止めをされているのだろうか?
ルーシーが申し訳なさそうな表情をしたので、ラピスはそれ以上聞くことはしなかった。

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