賢者の石 | ナノ

▼ 23(3)


「はっ……う、くっ…っ…あぁっ!!」

必死に声を押し殺そうとするが、あまりの熱さと痛みで殺し切れていない。
身体が燃えているように熱い。
まるで身体の中で何かが暴れ回っているかのように、かと思えば締め付けられているかのような激痛が走る。
それを、ラピスは歯を食いしばり、コンクリートの床に手と膝を付いて踏ん張っている。

「くっ…あ…あぅ……うぅっ……っ…」

アルバスの言った通り、今年は例年よりも遥かに酷い症状だった。
予想以上の症状に、ラピスは例年以上に苦しんだ。
その症状は、身体だけには及ばない。

ものすごい勢いと衝撃で、周りのコンクリートが崩れていく。
そして、ものすごい速さでコンクリートが元の状態に戻っていく。
これは、ラピスの"能力に頼った魔法"だ。
しかし、彼女の意志で発動しているものではない。
否、半分は意思が含まれている。
意志ではなく、意思だ。
制御しきれなくなった"能力に頼った魔法"は、彼女の意志に反して暴走する。
しかし、彼女自身は身体の異状に耐えることで精一杯な為、それをどうにかする余裕はない。
それでも破壊された物が元の状態に戻っていくのは、彼女の意思だ。

"傷付けたくない"――その心が、破壊された物が元の状態に戻る魔法を発動させているのだ。

この症状が、二十五日が始まってからその一日が終わる瞬間まで続く。
その間、ラピスは身体の異状に耐え続けなければならない。
彼女の異状が続く限り"能力に頼った魔法"の暴走も止まらない。
追悼等している暇はないのだ。

これが、ラピスが誕生日を嫌うもう一つの理由だ。
両親が亡くなった翌年の誕生日から、急に症状が現れたのだ。
それ以来、二十五日はこの地下室に籠る事にした。
この異状の原因は分からない。
両親にも聞けず、アルバスとルーシーも教えてはくれない。
しかし、もしもこの苦痛を和らげる方法があるのならば、きっと二人は何とかしてくれたはずだ。
彼等は毎年地下室の外で見守ってくれている。
つまり、これをどうにかする方法はないのだ。
どうしようもない、唯、耐えるしかない。
ラピスは誕生日にたった独りで地下室に籠り、必死で異状に耐えてきた。
しかし、今年はあまりにも酷い。

「あぁっ!……っ、ぐぅっ、はぁ……うぅ!!」

あまりの熱さと痛みで、気を失ってしまいそうになる。
目が霞み、呼吸をすることさえもままならない。
自分が気を失えば、この異状はどうなるのだろうか。
"能力に頼った魔法"は――?
気を失ってしまえばどんなに楽だろう。
一刻も早くこの苦しみから解放されたい。
しかし、それは出来なかった。
"気を失ってはいけない"と、何故かそう思う。

「っ………」

もう駄目だ、もう耐えられない。
そう思った時――、
ラピスは、胸元で何かがきらりと光ったのを見た。
それは、両親の形見であるペンダント。
震える手で光るラピスラズリを握りしめると、不思議な感覚に襲われた。
少し、症状が楽になったのだ。
何か、柔らかで温かな、心地良いものに包まれているような感覚。

「ご両親の愛が、君を守るのじゃ」

これを渡してくれた時のアルバスの言葉。
気休めだと言う事は分かっていても、それでも嬉しかった。
まるで、両親に支えられているようで。
まるで、守られているようで。

「おとうさ…ま、おかぁ…さま――」

気の所為でも気休めでも、それで嬉しかった。

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