試合後、寮の自室に戻るとこつこつと窓を叩く音がした。
「――ヘドウィグ」
訪問者は、足に小さなメモを付けたヘドウィグだった。
羊皮紙の端切れには《話しがある》とだけ書かれていた。
余程急いでいたのか走り書きだが、ハリーの字だ。
ヘドウィグに梟フーズを与え、ラピスは寮を出た。
――「スネイプだったんだよ」
ロンが言った。
拳を握ってとても興奮しているようだ。
ラピスがスリザリン寮を出ると、少し離れたところにハリー、ロン、ハーマイオニーが待っていた。
「ハリー」
ラピスが駆け寄ると、ハリーはにっこり笑った。
「とても素晴らしかったわ。やっぱり貴方、とても才能があるのよ」
「そんなことないよ」
ハリーは照れくさそうに頭をかいた。
「でも、あの時は本当に心配したわ」
「そのことなんだけどね、ラピス」
ハーマイオニーが大袈裟に咳払いをしてから、昨日ハリーが職員室で見たスネイプ教授の足の傷のこと、スネイプ教授がハリーの箒に呪いをかけていたこと、ニコラス・フラメルが関わっている何かをスネイプ教授が盗もうとしていることを話した。
"何か"とは、ハリーがずっと気にしていたグリンゴッツからハグリッドが出した小さな包みのことだ。
"ニコラス・フラメル"
確か、アルバスの話しに出てきたことがある。
「スネイプだったんだよ」
ロンがもう一度言って、ハリーが首を上下に振った。
「スネイプ教授が……?」
ハリーを殺そうとした?
――いや、それはありえない。
スネイプ教授は確かにハリーを憎んでいる。
しかしラピスは、彼が悪人だとは思えなかった。
「ハーマイオニーも僕も見たんだ。ハリーの箒にぶつぶつ呪いをかけていた。ずっとハリーから目を離さずにね」
「私がスネイプのマントに火を付けたの」
「きっとあの傷は三頭犬に噛まれた時に出来た傷なんだ」
「――でも、スネイプ教授じゃないわ」
ラピスの言葉に、ハリーはショックを受けたような顔をした。
彼女なら、必ず自分の意見に賛同してくれると思っていたのだ。
「何故スネイプ教授がそんなことをする必要があるの?彼は教師よ?」
「ならどうしてハリーを殺そうとしたの?」
ハーマイオニーが声を荒げた。
「ラピス、貴女も知っているでしょう?呪いをかける時はジーッと相手から目を逸らさずに見続けるの。あれは間違いなく呪いをかけていたわ」
彼女が言っていることは正しい。
彼女が"呪いをかけていた"と判断したのなら、きっとそうなのだ。
しかし、それでもラピスは納得が出来ない。
口を閉ざしてしまった彼女に、ハーマイオニーは小さく溜息を吐いた。
「仕方ないわね、ラピスは見ていなかったんだもの」
「ごめんなさい。ハリーを心配していなかったわけではないの」
「分かってるよ」
ハリーが言った。
ハーマイオニーの言う通り、彼女は現場を見ていなかったのだから仕方がない。
見ていたら、彼女も自身の考えに賛同してくれていたに違いない。
「貴方に怪我がなくて本当に良かった」
スネイプ教授ではなければ、一体誰がハリーを殺そうとしたのだろうか。
――"殺す"
ラピスはその言葉を心の中で繰り返し、思わずペンダントを握った。
もう、大切な人が死ぬのは嫌だ。
「――っ!!」
ぞくり、背中に寒気が走った。
同時に視線を感じ、ラピスは辺りを見回す。
「どうしたの?ラピス」
三人は不思議そうに聞く。
彼等は気が付いていないようだ。
「…いいえ、何でもないわ――」
辺りには誰もいなかったが、ラピスは一抹の不安を感じずにはいられなかった。
22 陰影の企み(本当は誰が――?)
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