「ラピスじゃない!」
皆が振り向けば、パーバティとラベンダーだった。
「どうして此処に?」
「何だか久しぶりね!」
嬉しそうに言って、二人は笑う。
「彼女達といつの間に友達になったの?」
「貴女を探しに行く――、」
「……どうしたの?」
ハーマイオニーの問いに答えていて、ラピスはふと気が付く。
"いつの間に友達になったの?"
――"友達"
その言葉を簡単に、自然に受け入れ、否定することもしなかった自分。
良いことなのか悪いことなのか。
分からない。
けれど、嬉しい。
「この間なったのよ」
「ね、ラピス」
「――ええ」
満面の笑みで言うパーバティとラベンダーに、ラピスは少し目を見開いてからはにかむように微笑んだ。
名前で呼んでくれたことが嬉しい。
友達だと思ってくれていることが嬉しい。
「僕等も友達だよな?」
「いや、僕はそれ以上の関係を望むよ」
「奇遇だな相棒、僕もそう思ってたところだ」
「抜け駆けはなしだぜ、相棒」
「オーケー、相棒」
「「ってことでよろしくラピス!」」
まるで打ち合わせでもしたかのようにリズムよく交わされる言葉。
そして、同時に差し出された二本の手。
それを見てロンが困った顔をし、そんなロンや双子を見てハーマイオニーやハリーが笑う。
ラピスに、言葉に出来ない感情が湧き上がった。
「……っふ、ふふふ」
「!!」
一瞬、水を打ったかのように辺りが静かになった。
ラピスが、笑ったのだ。
微笑んだのではない。
目を細めて、口角をしっかり上げて、声を出して。
ロンもハーマイオニーも、勿論ハリーも、彼女が笑っているところを初めて見た。
ロンはあんぐり口を開け、ハーマイオニーは唖然としている。
ハリーは、初めて見る、彼女が声を出して笑う姿に釘付けになっていた。
双子も、パーバティとラベンダーも驚いている。
「わーお!」
「……っ!」
フレッドの声に、笑っていたラピスは我に返る。
「なんだ、笑えるじゃないか」
「え?」
ジョージの言葉にラピスは目を見開く。
「君は、笑わない子なのかと思ってた。でも、笑えるじゃないか。安心したよ」
「――!!」
彼の言葉に、ラピスは愕然とした。
「それってまるで、ラピスをずっと見ていたような言い方だな」
「そうさ、僕はずっと彼女を見てた」
「いや、僕の方が前から彼女を見てた!」
「僕だ!」
言い合いを始めた双子。
ロンは呆れた様子で首を振る。
「貴女が笑って、驚いたけれど嬉しかったわ」
ハーマイオニーが微笑む。
「僕、食欲湧いてきたよ」
ジョージの言葉に少なからず嫉妬心が芽生えたハリーだったが、それよりも彼女が笑ったことが嬉しかった。
今なら、すごく良いプレーが出来る気がする。
「静かにしないか!愚弟達!」
騒ぐ双子をパーシーが怒鳴り付ける。
そのうち他のグリフィンドール生までやって来て、ラピスの周りは今までにない程賑やかだった。
――「笑えるじゃないか」
今思えば、こうして声を出して笑ったのは何年振りだろう。
もう笑うこと等ないと思った。
どう笑えば良いのか、思い出せなかった。
心のどこかで、笑ってはいけないような気がしていた。
何故かは分からない。
でも――、
「私、笑えるんだ」
胸が、温かい。
「あーあ、ラピスも同じ寮ならいいのになぁ」
ラベンダーが口を尖らせて言う。
「そうね、」
この人達と同じ寮ならば、こうして笑って、毎日賑やかに過ごせるだろう。
反りの合わないスリザリン生と過ごすよりも、ずっと有意義に過ごせるに違いない。
「でも――、」
でも、それでも。
「私は、スリザリンを選ぶわ」
言って、ラピスは自身の言った言葉に後悔を感じた。
「ごめんなさい、グリフィンドールが嫌なわけではないの」
「分かってるわ」
慌てて付け加えようとするラピス。
ハーマイオニーは彼女の肩に手を置いて言った。
「みんな、貴女のそういうところが好きなのよ」
ほわり、この感情は何だろう。
とても心地良くて、とても温かくて。
このまま落ちてしまえたら――。
そう思った。
「――!」
グリフィンドール生の垣根から、ちらりと見えた彼の顔。
先程私を何とかして引き留めようとしたドラコは、とても悲しい顔をしていた。
彼のあんな表情を見たのは初めてだ。
あの表情は、いつもの仮面なのだろうか。
それとも――、
どちらにしても、何故か胸がちくりと痛んだ。
この感情が何なのか、私はまだ知らない。
グリフィンドールのテーブルは益々盛り上がり、ラピスは双子に引っ張られクィディッチチームのメンバーやリー・ジョーダンと握手を交わした。
感じたことのない気持ち。
初めて触れた人達。
このままで良いの?
心の中の、もう一人の私が言う。
それでも――、
「もう少し、このまま」
このまま、温もりに触れていたい。
20 慣れない温もり(嬉しいような、寂しいような)
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