「待ちたまえ、ミス・ミリアム」
スネイプ教授がラピスを呼び止めた。
「君は我輩の寮の生徒だ。まだ話しがある」
ハリーとロンは同情の視線をラピスに寄こし、トイレを出て行った。
ラピスはスネイプ教授に連れられて彼の研究室に向かった。
「――"あれ"を使ったのかね?」
彼に引き留められた時、このことを聞いてくるのは直ぐに分かった。
「……はい」
この人に、嘘は通用しないと思った。
「二回、盾の魔法を使いました。二回目は、三人に見られてしまったと思います」
スネイプ教授は頬を僅かにぴくりとさせた。
「でも、使わなければハーマイオニーもハリーも死んでいました」
彼は納得出来ない様子だったが、暫くの沈黙の後、
「校長には我輩が報告しておく。今後はこのような騒動に関わらないようにしたまえ」
そっけなく言って、ラピスに寮へ戻るよう無言で促す。
「お手数をおかけして、申し訳ありませんでした」
短いやりとりの中で、ラピスの頭に疑問が浮かんだ。
それは、彼が自分の目を決して見ないこと。
漸く彼と接することに慣れてきたラピスは、徐々に彼の目を見るようになった。
しかし、今までに彼と視線が重なったことが一度もない。
そして、今日確信した。
タイミングが合わないのではない。
彼は、私の目を見ないのだ。
初めて会った時から、彼は私を見ようとはしなかった。
避けているのだろう。
それは、反抗的な発言をする前からだ。
彼は、以前から私を知っていた?
何故?
彼が、私を避ける理由は何――?
――次の日大広間に行くと、ハリーとロン、ハーマイオニーが仲良く朝食をとっているのを見た。
ラピスが大広間に入って来たことに気が付くと、三人は顔を輝かせて駆け寄って来た。
どうやら、共通の経験をして三人は仲良しになったようだ。
「朝から最悪だ」と悪態を吐くドラコから離れ、ラピスも三人に駆け寄った。
ドラコは昨夜大広間に来なかったラピスに散々何で来なかったのかを質問し、ラピスは曖昧に答えた。
その所為か、彼は少し不機嫌だ。
「あなた達が仲良くなれて良かった」
「ラピスがいてくれたからよ」
ハーマイオニーの言葉にハリーとロンが頷く。
ラピスは一瞬目を見開くと、微笑んだ。
「でも驚いたよ、あんなすごい呪文を使えるなんて。ラピスって本当にすごい」
「君がいなかったら、今頃僕達トロールの餌だ」
ロンとハリーが感心したように言う。
「…そんなことないわ」
「ねぇ、私思ったんだけど……」
ハーマイオニーの言葉に、ラピスの鼓動が速くなる。
次に彼女が言う言葉は分かっている。
ラピスはペンダントをきゅっと握った。
「ラピス、貴女あの時――どうやって魔法を使ったの?」
とくり、心臓が大きく鳴った。
「僕も思った。君、杖も使わなかったし呪文も使わなかった」
ハリーが言う。
あの時の彼の驚いた顔からして、気が付いてないわけがない。
「――まさか、そんなわけないでしょう?」
ラピスは静かに言った。
「そんなこと、出来るわけがないわ」
そう言うと、ラピスはくるりと踵を返し、スリザリンのテーブルに行ってしまった。
残された三人は、顔を見合わせる。
彼女の様子は少しおかしかった。
いつもにも増して無表情で、群青色の瞳はどこか悲しげだった。
何か、まずいことを言っただろうか……?
三人は首を傾げるのだった。
17 矛盾だらけの心(近付かないで、近付きたい、離れたい、傍にいて、)
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