賢者の石 | ナノ

▼ 17


隣に座る彼――ドラコはとても機嫌が悪い。
ハリーのところには今日も梟がやって来て、可愛らしい包みを落として行った。
ドラコはそれを見て眉間に皺を寄せる。
数日前までハリーに手紙も小包も届かないことを笑っていたのに、今ではハリーに毎日のように手紙や小包が届くようになっていた。
送り主は、ラピスとルーシーだ。
ルーシーはラピスが相談をすると、直ぐにお手製の菓子やパイをハリーに送るようになった。
ラピスはハリーに手紙を送ることにした。
寮が違う為に頻繁に会話が出来ない分、ラピスとハリーはお互いにあった出来事を手紙を通して伝え合った。
家から送られてきた菓子の包みをハリーに見せびらかすことが出来なくなったドラコは、とても悔しそうだ。

それから、彼が不機嫌な理由はもう一つ。
昨日の夜、ドラコはハリーとロンに真夜中の決闘を持ちかけて(勿論行く気等更々ない)嵌めようとしたのにも関わらず、ハリーとロンは罰則はおろか教師に見つかることもなかったのだ。
おまけにハリーが退学にもならないことを知り、ドラコは非常に機嫌が悪い。
クラッブとゴイルは散々八つ当たりをされ、可哀想な程だ。
流石のパーキンソンも空気を読み、ドラコに近付くことはしなかった。

もう一つ、ドラコが聞けば更に機嫌が悪くなるであろう情報を、ラピスは知っている。
ハリーに直接聞いたことだが、口止めをされているのだ。
口止めをされなくともラピスに口外する気はないが。
グリフィンドールは知っている生徒もいるようだから、ドラコの耳に入るのも時間の問題だと思う。

今日もアンバーが運んできた、ルーシーお手製のスコーンを口に運びながら、ラピスは昨日のハリーの話しを思い出していた。
夕食後、ハリーに呼び出されたのだ。
ドラコを撒くのが大変で、ラピスはやっとの思いで待ち合わせの教室に駆け込んだ。
ハリーはラピスの姿を見つけるや否や、非常に興奮して昨夜の出来事を話し始めた。

――「それで四階の廊下に逃げ込んだんだ。そしたら何がいたと思う?もう本当に驚いたよ!あんなの初めて見た!」
「四階って……立ち入り禁止の?」
「うん。あの時はそれどころじゃなくて其処が四階だなんて気付かなかったけど」

ハリーは鼻息荒く言う。

「怪獣みたいだったんだ!ものすごく大きくて、しかも頭が三つあったんだ!三つだよ?!君、考えられる?!大きな牙で目はぎょろぎょろしてて、唸り声なんて雷みたいだった!」

興奮したハリーは一気に話すが、ラピスは首を傾げる。

「ハリー、それで、其処にいたのは何だったのかしら……?」
「ああ、ごめん。犬だよ犬!怪獣犬だよ!」

ホグワーツにそんな怪獣犬が、本当にいるのだろうか。

「寮に帰って来て、ハーマイオニーが言ったんだ。あの犬は仕掛け扉の上に立ってたって。何かを守ってるんだって」

ハーマイオニーもいたのなら、恐らく怪獣犬の話しは本当だろう。
ハリーの話は勿論信用しているが、彼女はハリーやロンよりも物事を冷静に見極めることが出来るはずだ。
それにしても、昨夜の決闘騒動に彼女も巻き込まれたのは驚きだ。
真面目すぎる彼女のことだ、かんかんに怒っているに違いない。

「僕、分かった気がするんだ。グリンゴッツの七十三番金庫からハグリッドが持ってきた汚い小さな包みの話しをしただろう?」
「ええ」

小さな包みの話しは、ハリーからの手紙で散々聞いていた。
ラピスは大して興味がなかったが、ハリーは小さな包みを大いに気にし、彼女に色々と話して意見を求めた。

「あれが関係してるんだよ。きっと、あれを怪獣犬が守ってるんだ!でも、それが何かが分からない」
「怪獣犬が守っているのがただの小さな包みだとは思えないわね」
「そうなんだよ。あんなに厳重な警備が必要な物って一体何だと思う?」
「さぁ……きっと、とても大切な物よね」
「大切な物…大切な物……」

ハリーはぶつぶつ呟いて、頭を抱えている。

「何か分かったらまた教えるよ。君も何か分ったら教えて」

ハリーの頭の中は、ドラコに嵌められた事よりも七十三番金庫にあった小さな包みの事で一杯のようだった。

――「馬鹿、それは僕のだ!口卑しい奴め」

自分の皿に乗ったソーセージに手を伸ばしたゴイルを、ドラコが叱りつける。
彼が機嫌が悪い時くらい大人しくしていれば良いものを、クラッブとゴイルは食べ物のことになるとそんなことは頭にないようだ。
ドラコにねちねちと嫌味を言われているゴイルを横目に、ラピスがハリーの方へ視線を移した時、彼の元に数匹の梟が大きな包みを落として行ったのを見た。
あの形は――、
興奮を抑えきれない様子のハリーとロンを見て、ラピスは小さく笑みを零した。
隣に座るドラコは未だゴイルに嫌味を言っていて、気付いていないようだ。
良かった、彼が気付けばゴイルとクラッブは更に酷い目に合うに違いない。

視線を感じてラピスが其方を見ると、視線の主、ハリーが何か言っている。
声は出していないが、ラピスは直ぐに理解出来た。
"良かったわね"と唇を動かすと、彼はにっこりと笑って頷いた。
ラピスも彼に微笑み返した。

一時間目が始まる前、珍しくドラコの姿はなく、魔法史の教室までラピスはグリーングラス、ブレストロード、パーキンソンと行った。(勿論彼女達がついて来たのだ)
始業直前に、ドラコとクラッブ、ゴイルが小走りで教室に入って来たと思えば、ドラコの機嫌が朝よりも悪い。
クラッブとゴイルまで珍しくいらいらしているところを見ると、どうやら彼等もハリーが箒を貰ったことを知ってしまったらしい。
きっとドラコはハリーのことを罵りたくて仕方がないのだろうけれど、ラピスの前ではハリーの悪口を言わなかった。

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