「手伝うよ」
「ありがとう」
「それにしても君、本当に本を読むのが早いね」
本を読み終わり、本棚に本を戻す。
今度は手作業だ。
高い棚の本ばかりだった為、戻しているのはセドリックだ。
「何か調べてるの?」
「ええ、まぁ……」
本を戻しながらセドリックが聞く。
ラピスは曖昧に答えた。
「何について?」
「……色々と」
恐らく、彼は聡い。
何かぼろを出せば、彼は知ってしまう気がした。
そう言う能力を持っている人だと思った。
「…そう。その様子だと調べものは見付からなかったみたいだね」
「ええ」
ラピスは本棚を見つめたまま答えた。
今日も何も見付けられなかった。
直ぐに見つかるとは思っていない。
しかし、少しでも何か手掛かりがあれば……。
図書室の全ての本を読むにはあまりにも時間がかかる。
それでも、やはり知りたい。
時間がかかったとしても、必ず突き止めてみせる。
「手伝って下さってありがとう。ごきげんよう」
図書室を出て、お礼を言いセドリックに背を向ける。
早く彼と離れたいと思った。
その時――
「待って!」
声がしたかと思えば、くいっとブラウスの袖を引っ張られた。
「……ごめん」
振り向いたラピスに、セドリックが謝る。
「……何かしら」
「さっきのこと…君の秘密を口外しないってこと」
「……?」
「条件を出しても良い?」
「……ええ」
予想外の彼の言葉に身構えるラピス。
一体何を言われるのだろうか。
ラピスはペンダントをきゅっと握る。
彼は少し考える仕草をした後、意を決したように言った。
「――また、会ってくれない?」
「……え?」
またも予想外の言葉に、ラピスは吃驚する。
「月に一度、此処で一緒に勉強するって言うのはどうかな?」
「……分ったわ。そうしたら黙っていてくれるのね?」
「勿論。約束は守るさ」
黙っていてくれるのならば、月に一度の勉強会等安いものだ。
彼には絶対に黙っていてもらわなければならない。
「交渉成立だ」
セドリックはにっこり笑った。
「よろしく、――ラピス」
「っ!!」
彼は一度も目を合わせないラピスの顔を覗き込むと、自分を彼女の瞳に映して更ににっこり笑った。
ラピスが言葉を発する暇もなく、彼はくるりと踵を返して歩き出した。
「――あの笑顔、苦手だわ……」
セドリックの後姿に、ラピスはぽつりと呟く。
彼が握っていた袖は、未だ少し温かかった。
16 空虚な瞳と密約を(君の瞳は虚無だった)
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