「あのね、ハリー。これ、遅くなってしまったけれど……誕生日プレゼント」
ラピスはローブのポケットから小さな包みを出して、ハリーに差し出した。
「えぇ?!僕に?」
ハリーが驚きの声を上げる。
「男の子に贈り物をするのは初めてだから気に入ってもらえるか分らないけれど……受け取ってくれるかしら」
「あ、ありがとう」
ハリーは少し頬を染めて、ラピスから包みを受け取った。
彼もまた、女の子からプレゼントを貰うのは初めてなのだ。
ハリーの手の中の包みをロンが羨ましそうに見る。
「うわぁ……」
包みを開けて出てきたのは、滑らかに丸くカットされた天然石を繋ぎ合わせたブレスレットだった。
大小の石は動かす度にきらりと光る。
それは、ハリーの瞳と同じ緑色をした、エメラルドだった。
「すごく綺麗……」
ハーマイオニーがうっとりと呟く。
「本当に貰っても良いの……?」
一度受け取ったは良いが、この見るからに高価なブレスレットを本当に受け取っても良いのだろうか。
「勿論よ」
彼と初めて会った翌日、ラピスはロンドンに彼の誕生日プレゼントを選びに行った。
今までルーシーとアルバスにしか贈り物をしたことがない為に非常に悩んだが、このエメラルドの美しさに惹かれ、"これしかない"と思ったのだ。
石と材料を購入し、ラピスが自分で繋ぎ合わせたのだ。
一つ一つ、彼の幸運を祈りながら。
「だって…貴方の為に選んだんだもの」
「ありがとう」
ハリーははにかみながら微笑む。
ブレスレットを手首に通したハリーを見て、ラピスも微笑んだ。
「とても似合ってるわ」
「ありがとう、ラピス」
二人が微笑み合うと、ブレスレットがきらりと光った。
「ねぇ、ラピスの誕生日はいつなの?」
「私は……十二月二十五日」
ラピスは一瞬躊躇って、呟くように言った。
「クリスマスなんだ!」
「素敵!」
「何か特別な感じがするね」
三人は顔を輝かせてそう言うが、ラピスはそうは思っていなかった。
誕生日は自分が生まれた日で、両親が殺された日だ。
一番古い記憶の誕生日は、悲しくて残酷な、恐ろしい日だった。
誕生日には良い思い出はない。
ラピスにとって、誕生日とは一年の中で一番最悪な日なのだ。
――けれど、
「クリスマスプレゼントと二つ贈るよ」
「そうだね、奮発しなくちゃいけないな」
「楽しみにしてて!」
彼等が嬉しそうに笑う姿を見ていると、気持ちが少し和らいでいく気がする。
出会って間もない彼等の存在が、自分の中で少しずつ大きくなっていくのが分かる。
「クリスマスが誕生日なんて、君にぴったりだ」
ハリーの言葉に、ラピスは胸が温かくなった。
しかし、同時に湧き上る感情。
じわじわと広がるのそれは、言いようのない不安と恐怖。
もし――、彼等が両親のようになってしまったら。
私の所為で彼等に何かあったとしたら。
それでも彼等を求めようとしてしまう私は、何て酷い人間だろう。
ラピスはペンダントをきゅっと握った。
13 満たされない孤独(それはきっと、私の罪)
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